こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

双極性障害では躁状態の極とうつ状態の極の二極があり,深層心理的には二つの極の自己イメージを扱うことが大切になります。プロセスワークの,「ハイドリーム」の「ロードリーム」と呼ばれる無意識レベルのイメージにまで深めるアプローチも重要です。

双極性は,英語では"bipolar"と表記し,'bi'(2つの)+'polar'(極性)をもつという意味です。磁石のN極とS極のように二極性のものを指す単語ですが,この2つの極は両方あることでその働きが活きてくるわけです。双極性障害でも,うつ状態の自己イメージが「否認」されてしまうと,極性のバランスが崩れ,躁状態の自己イメージもうまく活かせなくなってしまうことになります。

躁状態の無意識には「ハイドリーム」があり,理想の自分やある種の万能感に浸っているような感覚が無意識レベルにあるので,そこにとどまりたくなります。そうすると,うつ状態の「ロードリーム」は「ハイドリーム」の世界をおびやかすものになり,「ハイドリーム」に逃げ込むようになります。このアンバランスさが,現実的な検討を困難にして,問題のある行動に走らせたりします。

「ハイドリーム」は文字通り夢(無意識)の次元なので,どんな「ハイドリーム」に動かされてるのかに気づきを向けて,自覚的に現実の中でその自己イメージを生きられるように,一緒に考えていくことも,カウンセリングの重要な方向性になっていきます。
双極性障害の気分の波を乗りこなす「波乗り」というのは,気分の波を全体的に俯瞰できる感覚を身につけることが重要です。本来はその感覚をもっているはずなのですが,気分の波が不安定になったことで見失っているので,取り戻すという方が適切ですね。

前回も,気分の波の振幅の中心に自分の基準を置くと書きましたが,うつ状態に対する不安や恐怖が強かったり,防衛機制の「否認」が働いていると,なかなか難しくなります。このため,カウンセリングの初期にはそれらをやわらげることが優先されます。振幅の中心というのは,気分の波を安定させる心の軸でもあるので,落ちついたらその振幅の中心を見つけていくように進めます。

気分の波は,振幅の中心軸にいることで,その方向や傾きの度合いがわかりますから,それに合わせて波に乗っていくイメージです。今,自分の気分の波がどうなっているのかがわからなければ,その波に振り回されてしまいます。うつ状態の極に向かうときにも,その波に乗っていけば,自然な波の流れでその極を越えて,早く中心側に戻っていく上向きの波に乗れるようになります。

うつ状態の極に向かう下向きの波の時期には,自分と向き合ったり今後の方向性を見直したりして,上向きの波の時に落ちついて最大限のパフォーマンスを発揮する準備ができます。下向きの波にうまく乗れてこそ,上向きの波にもうまく乗れるようになれます。
双極性障害は,躁うつ病とも呼ばれますが,気分の波があり,上がったときが躁状態,下がったときがうつ状態となります。躁状態の方が,思考や行動面の逸脱はあるものの,気持ちも高まり元気なので,躁状態の方に健康な自分の基準を置きやすくなります。

躁状態に健康な自分の基準を置くと,うつ状態は病的な自分と感じることになりますが,こうなるとうつ状態だけが注目されるため,「うつ病」と間違いやすくなります。双極性障害は,気分の波が不安定になることが中核的な症状なので,躁状態もうつ状態も自分の気分の波の中にあることを俯瞰するように,波の振幅の中心に自分の基準を置けるようになることが,とても重要です。

とはいえ,うつ状態の方に落ちていくような方向の波のときは苦しく,不安や恐怖が伴いますから,早く抜け出したいと思うのも無理もないことです。「否認」という防衛機制が働くのも,そういう自分を見たくない,それが自分の一部だと認めたくないための反応です。すると,何とか気分を落とさないようにとエネルギーを使ってしまい,安定のためのエネルギーが失われてしまいます。

多くの人が,この悪循環に陥って気分を安定させる方向に心のエネルギーを使えず,悪化させてしまいます。カウンセリングでは,うつ状態に落ちる不安や恐怖を受けとめながら緩和し,全体の気分の波の乱れを安定させるようにアプローチしていきます。
双極性障害には,Ⅰ型とⅡ型がありますが,いずれも薬物療法とカウンセリングの併用が重要になります。Ⅱ型のカウンセリング経験が多いため,このブログでは基本的に,躁状態が比較的マイルドなⅡ型について,深層心理学的な視点で書いていきます。

Ⅰ型の人にも参考になるとは思いますが,Ⅱ型を含めて,薬物療法を続けて気分の波が落ちついていることが,カウンセリングの前提になります。方向性としては,二極化した自己イメージの統合と,僕が「(気分の)波乗り」と呼んでいるセルフケアを身につけていくことが主になります。「波乗り」が自然にできるようになれば,減薬していき薬をやめることも可能だと考えています。

二極化した自己イメージというのは,双極性障害の人や僕のような双極的な気質をもっている人の多くに見られます。それは,躁状態の極の自己イメージと抑うつ状態の極の自己イメージに二極化しているわけです。そして,抑うつ状態の極の自己イメージは,防衛機制によって「否認」されていて,躁状態の極の自己イメージに同一化(それが自分だと思うこと)していると言えます。

躁(Ⅱ型の軽躁)状態は,気分がのっていてアイデアが次々に出てきますし,集中力も高く能力を最大限に発揮し成果に表れます。抑うつ状態を自分じゃないように感じるのも自然な気持ちですが,双方の極を受け容れ統合することで気分は安定していきます。
前回,トラウマ的な体験による自分自身への「怒り」が,「解離」という防衛機制につながると書きましたが,「解離」が起きると「怒り」が切り離されたようになり,他の理不尽な場面でも「怒り」を感じることができなくなっていることが多くあります。

アレキシサイミア(失感情症)という状態像がありますが,「解離」との関連性が指摘されています。アレキシサイミアも,感情を感じられなくなっている点では共通していて,感情を「解離」させるようなトラウマ的な体験が背景にある可能性が高いと言えます。うつ病における「怒り」や,その引き金になった「悲しみ」「後悔」といった感情も,同様に「解離」されることがあります。

アレキシサイミア(失感情症)傾向の人が,心身症と呼ばれる様々な身体症状を訴えることは典型的とも言えますが,「仮面うつ病」と呼ばれる,抑うつ症状よりも身体症状を主訴として医療機関を受診するタイプのうつ病も,共通点が多いのが特徴です。いずれにしても,感情に対して「解離」を用いるというパターンを変えていくことが,カウンセリングの中長期的な目標になります。

「解離」といっても様々ですが,トラウマ的な体験が背景にあるため,薬物療法やカウンセリングで症状が緩和されても,対症療法にしかなりません。根本的には,トラウマ的な傷つきが癒されるような,継続的な心理療法のアプローチが重要なのです。
感情の表出によるトラウマ体験,例えば「怒り」を表出して大変なことになった場合など,「抑圧」がかなり強力なケースがあります。それが,大切な何かを守れなかったという自分自身への「怒り」になっていることもあり,それもうつ病に発展していきます。

「怒り」に伴う自分の外側に対する攻撃性が自分の内側に向けられるために,うつ病に発展するケースが多いと書きましたが,もともと自分自身に対して「怒り」があることも多くあります。この場合,出来事に伴う「悲しみ」や「後悔」などが最初にあって,自分を責めてしまう形で「怒り」を向けます。責任感の強い,「メランコリー親和型」がうつ病になりやすい傾向とも合致します。

「怒り」を表出して大変なことになった場合も,「悲しみ」や「後悔」を伴います。いったんは,「怒り」が自分の外側に表出されているので,「抑圧」の防衛機制ではありませんが,「悲しみ」や「後悔」がトラウマのレベルに達すると,「解離」という防衛機制が働きます。「解離」が起こると,「怒り」の感情に気づくことがかなり難しく,うつ病も重くなるケースが多いと言えます。

この場合,「悲しみ」や「後悔」は無意識的な働きとなり,深層心理学では「コンプレックス」と呼ばれます。ここから自責などの「怒り」が自分自身に向けられ続けるため,カウンセリングの中心は「コンプレックス」を扱うことが中心になっていきます。
うつ病の背景に,「怒り」などのネガティヴな感情があって「抑圧」されている場合に,無意識下にある「怒り」に気づくというのは,基本的な深層心理学的アプローチです。もうひとつ,「抑圧」が何を守ろうとしているのかも重要なポイントになります。

古典的な精神分析では,「抑圧」されたネガティヴな感情に気づくことによって,症状が緩和あるいは消失するというのが,基本的な考え方です。カウンセリングを通して,「怒り」などのネガティヴな感情が,セラピストとの信頼関係に基づく安全安心な場で表出され,否定や批判されずその状況での自然な感情として受けとめられる体験は,大きな癒しにつながっていきます。

ただ,それだけでは「抑圧」という防衛機制の働きは,多くの場合そのままです。このため,再び同じような状況におかれたとき,そのネガティヴな感情を同じように「抑圧」してしまいます。前回も書いたように,防衛機制はその人の心を守る働きでもあります。「抑圧」があなたの何を守ってきたのかに気づくことは,あなたの心の奥の大切にしたい何かに気づくことにつながります。

何を守ろうとしてどんな「抑圧」の仕方をするかは,ある種の生きていくための方略です。その人が生きてきた歴史が,防衛機制による無意識的な心の働きにも表れています。それに気づくことで,もっと柔軟にあなたの大切な何かを守る方略が見つかります。
前回,うつ病の背景には,「怒り」の「抑圧」があると書きました。「怒り」のエネルギーはかなり強く,それを「抑圧」するにも相当のエネルギーが必要です。これらは無意識の領域で拮抗し,かなりの心のエネルギーを消耗して,抑うつ状態を生じさせます。

「抑圧」は,英語で"repression"ですが,'re'(反対に)+'pression'(抑える)という意味があります。「抑うつ」は英語で"depression"ですが,'de'(下に)+'pression'(抑える)となるので,ほとんど意味は同じです。防衛機制である「抑圧」は,自我(自分)をその時に守る必要があるので働きます。深層心理学的に,「抑うつ」状態は自分を守る働きがあるとも言えます。

「怒り」が勝手に解放されると,他人を傷つけることもあるし,人間関係で困ることも多いでしょう。解放してしまったことで,後悔したり傷ついてトラウマが残ったりした経験があるかもしれません。「怒り」は,扱うのが難しい感情ですが,人として自然に感じる正当な感情であれば,その感情をもつことを自分自身で許してあげることも大切なカウンセリングの過程になります。

正当な感情としての「怒り」は,「魂」のようなレベルにある,あなたが本当に大切にしたい何かが傷つけられた反応であることも多いです。「怒り」などのネガティヴな感情をひもといていくと,「魂の願い」のような深い気づきにもつながっていきます。
うつ病といわれる状態を深層心理学的にはどのようにみるか,という話題ですが,割と典型的には「攻撃性」が関連してきます。うつ病は,「攻撃性」が自分に向かっているために,心を傷つけて心のエネルギーが枯渇してしまった状態と言えます。

「攻撃性」というのは英語"aggression"の訳語ですが,深層心理学的には転じて「積極性」にもつながります。例えば,「怒り」をエネルギーに転換するような形で,「昇華」と呼ばれる防衛機制が働くと,「攻撃性」も転じて精力的な活動などにつながります。ただ,「怒り」のような感情は,社会的に表現することが適切とされない場面が多く,「抑圧」されやすい感情です。

「抑圧」された「攻撃性」は,自分の外側より内側に向いてしまい,自分自身の攻撃に向かい,心を傷つけていきます。抑うつ状態に陥るとき,「内なる批判者」と呼ばれるものと深層心理的ワークで対峙する必要が出てくる場合も多くあります。「攻撃性」に気づきを向けられずに重症化すると,うつ病の症状としての妄想である「罪業妄想」「卑小妄想」などにまで膨らんでしまいます。

「攻撃性」を喚起する感情は,「怒り」であることが多く,どのような「怒り」を「抑圧」してしまったかに気づいていくことが重要になります。ただ,無意識下に入っていて見えづらいため,「内なる批判者」に焦点づけたワークが有効に働くことも多いです。
うつ病と双極性障害は,どちらも抑うつ状態があり,その症状だけではなかなか区別がつきません。このため,数年間ぐらいのスパンで気分の波がどう推移してきたのか,経過を振り返っていくことが重要になります。

双極性障害の場合,気が大きくなったり,怒りっぽくなったり,アイデアが次々に出てきたり,テンションが上がって眠らずに没頭したり,何かしら躁状態と思われる時期が,経過を聴いていくと何度かあります。ただ,本人の自覚は薄いケースが結構あります。本人は,躁状態のときが健康というか,良い状態の基準になっていることが多く,うつ状態のみを訴えることになりがちです。

うつ病の場合は,双極性障害のようなエピソードがほとんど見られません。「メランコリー親和型」と呼ばれたりしますが,性格的に生真面目で,ストレスになるような出来事を正面から受けとめてしまう人が多いので,お話を聴いていると,ある種の心の硬さを感じます。自責の念が強く,話を聴く限り本人は悪くないと思うことでも,自分を責めるような言動が目立つ傾向があります。

この意味では,双極性障害の人は,自信があったりテンションが高い状態に自分の基準をおくので,うつ状態でも自責の念の強さはあまり感じません。「これは本来の自分ではない」という感覚がどこかにあるので,そこには違いがあるように思います。