こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

双極性障害のセルフケアは,自分の気分の波の状態を感じとることが第一になります。抑うつ気分のときは,比較的わかりやすいのですが,躁的な気分のときは,調子がよくなったと思うぐらいで気づきづらいことが多いため,そちらの方に注意が必要です。

躁的な気分の状態になると,いろいろとアイデアが浮かんだりテンションが上がってくるので,その勢いで心のエネルギーを使い続けていきます。心のエネルギーが高まっているというよりも,躁的な気分に引っ張られてあまり眠らなくても大丈夫になったりしているので,実際は本人の自覚以上に心のエネルギーを消耗していて,抑うつ気分のときにガクッと重いうつ状態になりがちです。

この重いうつ状態の予防のために,躁的な気分のときには心のエネルギーを消耗しすぎないような過ごし方が重要になります。うつ状態の後に躁的な気分に波が戻ってきた時期は特に,それまで活動できなかった反動で,取り戻そうと躍起になってしまうこともよくあります。心のエネルギーの消耗を抑えられれば,気分の波が抑うつ側に向かった際に比較的軽くでき,早めの回復が可能です。

躁状態にあることは,自分ではなかなか気づきづらいものです。専門家でなくても,家族など身近で見ている人は変化に気づきやすいので,サポートをお願いすることも有効です。自分で気づく力を高めるためには,継続的なカウンセリングが必要と言えます。
うつ状態を,心が溺れそうになっているイメージに例えて,心の力を抜くことが大切と前回書きましたが,これがなかなか難しいと思います。うつ病になりやすい人は,頑張り屋さんが多いので,頑張らないで休むようなことが苦手な人が多いと感じています。

うつ病の人に「頑張れ」と励ましたりすることがタブーというのは,周囲の人への一般的な助言なのですが,もともと頑張っている人に頑張れと言っても,「これ以上何を頑張れっていうの?」という感覚になりますよね。基本的には,心のエネルギーが枯渇している状態なので「休みましょう」とカウンセリングでもお伝えするのですが,休むことに罪悪感があったりするので難しいです。

この場合,自己否定的なイメージが強いことが多くて,自分の欠点や問題点に焦点を当ててしまいがちです。それを何とかしようと頑張っているのですが,頑張っていることで欠点や問題点を直視しなくてすむという側面があります。休んでしまうと,自分の欠点や問題点が浮き彫りになってしまうので,うつ病で休職しているのに,家で勉強したりして心を休められない人は結構多いです。

子どもの頃,親や教師に欠点や問題点ばかり指摘され続けると,こういう心のクセがつきやすいです。欠点や問題点があっても,自分が受け容れられ,価値がある存在だと感じられる体験が必要なので,カウンセリングの関係性でもそれを大切にしていきます。
抑うつの方向に気分が落ちていくとき,「気分が沈む」という表現をしますが,身体感覚としても重くなり,水に沈むような感覚に近いように思えます。こういう状態から早く抜け出したいと思うのは自然な気持ちですが,かえって逆効果になりやすいのです。

「気分が沈む」感覚を,水に沈むというメタファーを使ってイメージするとわかりやすいと思います。抑うつから早く抜け出そうともがくのは,溺れそうになって手足をバタバタさせてしまうのと似ています。もがけばもがくほど,体は沈んでいってしまいますよね。心のエネルギーが低下している時に,抜け出そうといろいろもがいてしまうと,残り少ないエネルギーが枯渇してしまいます。

体には本来,浮力があるので力を抜けば水に浮くことができます。心にも本来,浮かび上がる力(自然治癒力)があるのです。そうは言っても,泳げない人は力を抜けばいいとわかっていても,恐怖心から力が入ってしまい沈んでいきます。浮いた状態を体験することで,力の抜き方もつかめてきます。うつ病でも,浮かび上がる感覚を体験することで,心の安定がつかめるようになります。

うつ状態は,心が溺れそうになっているイメージに近く,心の力の抜き方がわかれば,うつ病まで悪化させなくて済みます。心の力が抜ければ,気分が楽になって「心が軽くなる」ので,カウンセリングを通して,心の力を抜けるようにサポートしていきます。
ストレスなどがかかって精神的な不調が続くと,うつ病にまで悪化してしまう場合があります。また,抑うつ症状がある程度改善しても,思いグセというか心理的な習慣が変わらないままだと,再発する危険性があるので,セルフケアと予防について書きます。

うつ病にまで悪化する要因は様々ですが,何らかのストレスが重なっていることが多いです。ストレスとしての要因に心当たりがない場合は,脳の疾患や糖尿病などの身体的な要因,甲状腺の疾患や更年期などホルモン系の要因などもチェックした方がいいので,医師の診察が大切になります。ただ,ストレスを感じないようにしているうちに,鈍くなっているケースも多くあります。

HSPと呼ばれる高い繊細さをもつ人などは,もともとストレスを感じやすいので,感じないようにする習慣がついてしまう傾向があります。対処できない強いストレスが急に起きたときも,そうして対処しようとすることがあります。「心を感じなくしたい」と言ってカウンセリングに来られる方もおられますが,ストレスが蓄積することで突然重い症状が出る方が長期化しやすいのです。

ストレスを感じなくすることで,喜びや幸せを感じる感受性もなくしてしまいます。うつ病のセルフケアにおいては,ストレスを繊細に感じてこまめに対処し,カウンセリングを通して喜びや幸せを見つけられる方向に習慣をつけていくことが基本になります。
前回,双極性障害における「ハイドリーム」と「ロードリーム」について書きましたが,両方に「自己愛」が関連していると言えます。「自己愛」の揺れが,気分の波と連動していくので,健全な「自己愛」を育むことがカウンセリングでも重要になります。

「自己愛」という言葉から,自己愛性パーソナリティ障害を想起される方もいらっしゃると思いますが,パーソナリティ障害を意味しているのではなく,自分で自分の価値を認められる自信のような感覚だと思ってください。「自己愛」の傷つきがあると,双極性の気分の波は共通してみられるので,「自己愛性」「境界性」などのパーソナリティ障害にも関連する内容ではあるのですが。

「自己愛」の傷つきは「ロードリーム」に反映されるので,うつ状態の極の時期には,「自己愛」のどういう側面に傷つきがあるのかを「ロードリーム」に見出していくことが,その傷つきを癒し抑うつの症状を軽減することに役立ちます。傷つきの傾向を知ることで,その傷が刺激されないようにする「守り」が心の中につくられることで,気分の波を安定させる予防にもつながります。

「自己愛」の傷つきが深いほど「ハイドリーム」に逃げ込みたくなり,気分の波は不安定になるので,「ロードリーム」から気づく「守り」と,前回書いた「ハイドリーム」から気づく自己イメージを生きる方向性が,カウンセリングの両輪になっていきます。
双極性障害では躁状態の極とうつ状態の極の二極があり,深層心理的には二つの極の自己イメージを扱うことが大切になります。プロセスワークの,「ハイドリーム」の「ロードリーム」と呼ばれる無意識レベルのイメージにまで深めるアプローチも重要です。

双極性は,英語では"bipolar"と表記し,'bi'(2つの)+'polar'(極性)をもつという意味です。磁石のN極とS極のように二極性のものを指す単語ですが,この2つの極は両方あることでその働きが活きてくるわけです。双極性障害でも,うつ状態の自己イメージが「否認」されてしまうと,極性のバランスが崩れ,躁状態の自己イメージもうまく活かせなくなってしまうことになります。

躁状態の無意識には「ハイドリーム」があり,理想の自分やある種の万能感に浸っているような感覚が無意識レベルにあるので,そこにとどまりたくなります。そうすると,うつ状態の「ロードリーム」は「ハイドリーム」の世界をおびやかすものになり,「ハイドリーム」に逃げ込むようになります。このアンバランスさが,現実的な検討を困難にして,問題のある行動に走らせたりします。

「ハイドリーム」は文字通り夢(無意識)の次元なので,どんな「ハイドリーム」に動かされてるのかに気づきを向けて,自覚的に現実の中でその自己イメージを生きられるように,一緒に考えていくことも,カウンセリングの重要な方向性になっていきます。
双極性障害の気分の波を乗りこなす「波乗り」というのは,気分の波を全体的に俯瞰できる感覚を身につけることが重要です。本来はその感覚をもっているはずなのですが,気分の波が不安定になったことで見失っているので,取り戻すという方が適切ですね。

前回も,気分の波の振幅の中心に自分の基準を置くと書きましたが,うつ状態に対する不安や恐怖が強かったり,防衛機制の「否認」が働いていると,なかなか難しくなります。このため,カウンセリングの初期にはそれらをやわらげることが優先されます。振幅の中心というのは,気分の波を安定させる心の軸でもあるので,落ちついたらその振幅の中心を見つけていくように進めます。

気分の波は,振幅の中心軸にいることで,その方向や傾きの度合いがわかりますから,それに合わせて波に乗っていくイメージです。今,自分の気分の波がどうなっているのかがわからなければ,その波に振り回されてしまいます。うつ状態の極に向かうときにも,その波に乗っていけば,自然な波の流れでその極を越えて,早く中心側に戻っていく上向きの波に乗れるようになります。

うつ状態の極に向かう下向きの波の時期には,自分と向き合ったり今後の方向性を見直したりして,上向きの波の時に落ちついて最大限のパフォーマンスを発揮する準備ができます。下向きの波にうまく乗れてこそ,上向きの波にもうまく乗れるようになれます。
双極性障害は,躁うつ病とも呼ばれますが,気分の波があり,上がったときが躁状態,下がったときがうつ状態となります。躁状態の方が,思考や行動面の逸脱はあるものの,気持ちも高まり元気なので,躁状態の方に健康な自分の基準を置きやすくなります。

躁状態に健康な自分の基準を置くと,うつ状態は病的な自分と感じることになりますが,こうなるとうつ状態だけが注目されるため,「うつ病」と間違いやすくなります。双極性障害は,気分の波が不安定になることが中核的な症状なので,躁状態もうつ状態も自分の気分の波の中にあることを俯瞰するように,波の振幅の中心に自分の基準を置けるようになることが,とても重要です。

とはいえ,うつ状態の方に落ちていくような方向の波のときは苦しく,不安や恐怖が伴いますから,早く抜け出したいと思うのも無理もないことです。「否認」という防衛機制が働くのも,そういう自分を見たくない,それが自分の一部だと認めたくないための反応です。すると,何とか気分を落とさないようにとエネルギーを使ってしまい,安定のためのエネルギーが失われてしまいます。

多くの人が,この悪循環に陥って気分を安定させる方向に心のエネルギーを使えず,悪化させてしまいます。カウンセリングでは,うつ状態に落ちる不安や恐怖を受けとめながら緩和し,全体の気分の波の乱れを安定させるようにアプローチしていきます。
双極性障害には,Ⅰ型とⅡ型がありますが,いずれも薬物療法とカウンセリングの併用が重要になります。Ⅱ型のカウンセリング経験が多いため,このブログでは基本的に,躁状態が比較的マイルドなⅡ型について,深層心理学的な視点で書いていきます。

Ⅰ型の人にも参考になるとは思いますが,Ⅱ型を含めて,薬物療法を続けて気分の波が落ちついていることが,カウンセリングの前提になります。方向性としては,二極化した自己イメージの統合と,僕が「(気分の)波乗り」と呼んでいるセルフケアを身につけていくことが主になります。「波乗り」が自然にできるようになれば,減薬していき薬をやめることも可能だと考えています。

二極化した自己イメージというのは,双極性障害の人や僕のような双極的な気質をもっている人の多くに見られます。それは,躁状態の極の自己イメージと抑うつ状態の極の自己イメージに二極化しているわけです。そして,抑うつ状態の極の自己イメージは,防衛機制によって「否認」されていて,躁状態の極の自己イメージに同一化(それが自分だと思うこと)していると言えます。

躁(Ⅱ型の軽躁)状態は,気分がのっていてアイデアが次々に出てきますし,集中力も高く能力を最大限に発揮し成果に表れます。抑うつ状態を自分じゃないように感じるのも自然な気持ちですが,双方の極を受け容れ統合することで気分は安定していきます。
前回,トラウマ的な体験による自分自身への「怒り」が,「解離」という防衛機制につながると書きましたが,「解離」が起きると「怒り」が切り離されたようになり,他の理不尽な場面でも「怒り」を感じることができなくなっていることが多くあります。

アレキシサイミア(失感情症)という状態像がありますが,「解離」との関連性が指摘されています。アレキシサイミアも,感情を感じられなくなっている点では共通していて,感情を「解離」させるようなトラウマ的な体験が背景にある可能性が高いと言えます。うつ病における「怒り」や,その引き金になった「悲しみ」「後悔」といった感情も,同様に「解離」されることがあります。

アレキシサイミア(失感情症)傾向の人が,心身症と呼ばれる様々な身体症状を訴えることは典型的とも言えますが,「仮面うつ病」と呼ばれる,抑うつ症状よりも身体症状を主訴として医療機関を受診するタイプのうつ病も,共通点が多いのが特徴です。いずれにしても,感情に対して「解離」を用いるというパターンを変えていくことが,カウンセリングの中長期的な目標になります。

「解離」といっても様々ですが,トラウマ的な体験が背景にあるため,薬物療法やカウンセリングで症状が緩和されても,対症療法にしかなりません。根本的には,トラウマ的な傷つきが癒されるような,継続的な心理療法のアプローチが重要なのです。