こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

発達障害,特に自閉症スペクトラム障害における抑うつ状態というのは,通常のうつ病とは少し異なる側面があります。本質的には人との関わりを求めているのですが,その特性からコミュニケーションがうまくとれず,あきらめてしまっている状態と言えます。

うつ病になるメカニズムとして挙げられている中に「学習性無力感」がありますが,何度やってみても上手くいかない経験が重なることで,頑張る気力も尽きてしまったような状態を指します。一般的には,うつ病になる過程で様々な感情が起こるのでそう単純ではないのですが,自閉症スペクトラム障害では,心理学における「学習」のメカニズムが比較的シンプルに働くと考えられます。

心理学における「学習」というのは,刺激に対する反応によって形成される行動という意味合いになります。カウンセリングにおいても,感情にアクセスすること自体が苦手なため,深層心理学的なアプローチを普通に適用しようとしても難しい場合が多いです。同じパターンの繰り返しでうまくいかなくなっているのに気づき,違うパターンを見つけたりする心理教育的な方向になります。

注意欠如・多動性障害や限局性学習障害においても,発達障害という自分の特性に気づかずにうまくいかない経験を重ねていることが多いので,努力が足りないとかではなく,特性であることを理解することで気持ちが楽になるという方も多くいらっしゃいます。
発達障害には,自閉症スペクトラム障害(ASD),注意欠如・多動性障害(ADHD),限局性学習障害(SLD)に大別されますが,これらの困難に伴うストレスが重なり,抑うつ状態で不適応を起こしたり,うつ病などの精神疾患にまで発展することがあります。

発達障害は診断が複合することもあり,自閉症スペクトラム障害の特性が中心にあるとストレスの蓄積から抑うつ状態に陥る可能性が高いと考えられますので,ここでは自閉症スペクトラム障害に関する特性に関して主に取り上げたいと思います。自閉症スペクトラム障害では,物事の捉え方の独特さとコミュニケーションの困難さが,抑うつ状態やうつ病を引き起こす要因になっています。

興味の対象が非常に限定されていたり,独自の世界観から物事を捉えたりするので,自分の興味関心を他の誰かと共有することが難しいと言えます。また,ニュアンスや場の空気といった言葉以外の部分を捉えるのが苦手で,コミュニケーションで噛み合わないことが多いです。このようなことが重なって思春期頃から孤立しやすくなり,抑うつ状態が膨らみ不適応や不登校につながります。

自閉症という文字の印象もあり,人と関わることを好まないと思われがちですが,本質的には関わりを求めています。しかし,求めてもうまく関わりをもてず,孤立したりいじめに遭うこともあったりして,あきらめてしまっているというのが実際のところです。
パーソナリティ障害は,深層心理学でいう「自我」の脆弱さが共通していますが,「自我」の再形成が始まると,少しずつ葛藤を抱えられるようになります。葛藤を抱えられることにより,抑うつ感が強くなるのですが,カウンセリングとしては順調な過程です。

境界性パーソナリティ障害の場合,対人関係における相手の理想化の失望という葛藤を抱えられるようになることがひとつの目標です。失望を抱えることは,相手に向けていた「怒り」を自分の中にとどめることでもあります。無意識に自分本位な理想化イメージを相手に押しつけて,失望から相手を傷つけたという「罪悪感」が生まれますが,それを一緒に抱えるように関わっていきます。

自己愛性パーソナリティ障害の場合,自分自身に対する理想化の失望という葛藤を抱えられるようになることがひとつの目標です。この場合,自分自身に対する失望を,「怒り」として自分の中にとどめることになりますので,非常に強い抵抗を示します。自分に対する失望を抱えることで「責任感」が生まれてくるので,その人格的成長に対して一緒に認められるように関わっていきます。

この段階での抑うつ感は,幼少時のトラウマ的な体験とつながっているので,セラピストとの関係性が不安定になり中断になることもあります。セラピストとしては,そのトラウマ的な傷つきをいたわるように存在し続ける「器」になることが重要と言えます。
パーソナリティ障害のカウンセリングは,前回書いたような「自我」と呼ばれる心の枠組みの脆弱さを支えながら,ある種の形成不全を再形成するようにアプローチします。その過程は「育て直し」とも呼ばれ,年単位のカウンセリングの継続が必要になります。

境界性パーソナリティ障害の場合,対人関係における理想化とその失望による全否定という極端さがあり,0か100かという認知の仕方が強いので,話を聴きながらその間の10とか90などにとどまれるように一緒に見ていきます。「自我」の水準というのは,葛藤を抱えられるかどうかがひとつの基準ですので,好きと嫌いといった反対の感情等が混在できるように進めていきます。

自己愛性パーソナリティ障害の場合,対人関係において理想化が相手ではなく自分に向いています。自分自身の理想化に対して,葛藤を抱えることができないため,その理想化を脅かす相手に対して否定したり排除したりします。葛藤を抱えられるようにする方向性は,境界性と同じですが,自分自身への失望を抱えることになるため,それをもたらすセラピストを排除したくなりがちです。

パーソナリティ障害は,乳幼児ぐらいの小さい頃のトラウマ的な親子関係が背景にあることが多く,深い心の傷つきを抱えていると言えます。上記のようなアプローチは「介入」に当たりますが,その前提として安定した関係性を継続的に築くことが重要です。
パワハラ等のハラスメントにおいては,加害者側にパーソナリティ障害かそれに類する要因が考えられることが多いのですが,パーソナリティ障害をもつには,幼少時の家庭環境の問題が強く影響しているため,継続的なカウンセリングが必要と考えられます。

ここでは,境界性/自己愛性パーソナリティ障害について書きますが,一部を除いてパーソナリティ障害の人が自らカウンセリングに訪れることは少なく,何かトラブルが起こって周囲の人が困って行かされる形になることも多くあります。加えて,前回書いたような心の枠組みの脆弱さから内省力が弱く,来談を継続する動機にも乏しいので,中断事例も多く報告されているのが実情です。

このため,カウンセリングでは深層心理学で「自我」と呼ばれる,心の枠組みを少しずつ取り戻していくことが中心になります。そのためには,脆弱な心の枠組みを補う外側の枠組みが必要で,カウンセリングの時間や場所といった枠組みを守れるようにし,必要に応じてそこからの逸脱行動について,ルール作りをするということを,言葉の説明を含めて丁寧に進めていくことが重要です。

クライエント本人は,無意識レベルでセラピストから無条件の承認を得ようとするので,そういった枠組みに抵抗を示しますが,その枠組みの中でセラピストが「無条件の肯定的配慮」と呼ばれる関わりを続け,安定した関係性を築いていくことが不可欠です。
パワハラ等のハラスメントで,加害者側にパーソナリティ障害が疑われる場合,前回書いたようにルール作りなどで枠組みを明確にしていくことが,ひとつのポイントになりますが,ルールを守ってもらう立場の被害者側にも,心の強さが必要になってきます。

境界性/自己愛性パーソナリティ障害の場合,ルールなどの枠組みを作られることに対して,感情的に反応したり抵抗したりします。パーソナリティ障害というのは,深層心理学で「自我」と呼ばれる心の枠組みが脆弱なため,外側のルールなどの枠組みを守ることが難しいのが特徴です。境界性/自己愛性の場合は,特に対人関係に関する困難が大きいので,対応が難しいことが多いです。

一対一の関係でルール作りを行うのは,相手が激しく反応してしまう可能性があるので,できるだけその関係に権威性をもつ第三者のもとで書面にして明記するところまで行う方が適切です。そして,相手がどんな理由をつけてその枠組みを崩そうとしても,いったん決めたルールは厳格に適用するという意志をもつことが大切です。しかし,一人でそれをやりきることも大変だと思います。

枠組みに対しては,加害者側の上司や先輩などの権威性をもつ第三者が有効ですが,心理的な面でも専門家の支えが必要になります。カウンセリングで気持ちを立て直しながら,心の強さを保てるようなサポートを受けて,被害に対処していくことが重要です。
パワハラ等のハラスメントの加害者側にパーソナリティ障害と思われる特徴が見られる場合,その心理的な被害が大きいようなら,物理的に距離を置くのが一番です。「触らぬ神に祟りなし」というわけですが,物事そう単純にもいかない場合も多いでしょう。

職場のことなら,そう簡単に異動や転職ができるというわけでもないですし,家族になっていたりするとそう簡単に離婚できるというわけでもありません。物理的に距離を置けない場合は,心理的な距離を置くようにすることをお勧めします。境界性/自己愛性パーソナリティ障害の場合,この心理的な距離をおけないことが特徴ですので,周囲から枠組みを作っていく必要が出てきます。

枠組みというのは,ルールです。一番強力なのは,ストーカー規制法のような法律で,罰則を伴うなど力を伴うために,パワハラの加害者などには有効に働きやすいと言えます。会社だと,社内規定などを明確にするとか,ハラスメントをなくす取り組みをするなど,組織的に権威性を伴う方が有効です。家庭でも,加害者側の親とか先輩などと権威性を伴うルール作りをする方が有効です。

ただ,境界性/自己愛性パーソナリティ障害の場合,このような枠組みをかけられるのをひどく嫌がり,その隙間を探すようなことをしがちです。ルールは厳格に適用しないとなし崩しになる恐れがあり,適用する側の心理的な枠組みの強さが重要になります。
昨今問題になることが多いパワハラを含めて,ハラスメントの加害者側にはパーソナリティ障害やそれに近いパーソナリティ傾向をもつ人が多く見られます。被害を受けた時の対策や,うつ病などにならない予防のためにも,特徴を知っておくことは大切です。

パワハラの加害者側には,自己愛性パーソナリティ障害が疑われる人が多くの割合で含まれています。パーソナリティ障害と言わないまでも,自己愛に関する何らかの傷つきやユング心理学でいうコンプレックスが無意識レベルで働いていると考えられます。マスコミの取材などで,非常に横柄な態度や上から目線といった対応をとる人が多いのは,自己愛の傷つきの裏返しと推測されます。

DVを含むモラハラの加害者側には,境界性パーソナリティ障害が疑われる人が多いと言えます。これは,対人関係における不安定なイメージの中で,肯定と否定が極端に入れ替わったりするため,否定に入った時に人格否定のような形で相手を攻撃してしまうことによります。幼少時の親との関わりにおける傷つきや不安が背景にあることがほとんどで,期待はずれで責めている感じです。

対処の基本としては,どちらも理不尽極まりないという言動をとったりするので,できる限り心理的な距離をおけるように線引きやルール作りをすることが挙げられます。可能なら物理的に離れる方が安全ですが,難しい場合も多いので次回に詳しく書きます。
前回,パワハラ等のハラスメントによる「怒り」の感情が,うつ病に関連していることを書きました。社会的・心理的に立場が上の人が加害側になることがほとんどなので,被害側の人は声を挙げづらくなり,まして「怒り」の感情を出すことは困難といえます。

深層心理学的アプローチのところでも書きましたが,カウンセリングでは抑圧された「怒り」を正当なものとして扱い,「怒り」にていねいに気づき表現できるようにお話を聴いていきます。それに加えて,パワハラ等のハラスメントでは,ストレス状況も改善できるように,「環境調整」と呼ばれる具体的な対処についても考えていくことで,心理的なダメージの軽減を図っていきます。

具体的な対処というのは,会社での話ならハラスメントの窓口を確認したり,プライベートな関係なら味方になる人とつながるといったところから始めますが,実際に行動を起こすかどうかはあまり問いません。うつ状態では,行動を起こせるエネルギーが戻らないと難しいということもありますが,対処する具体的なイメージをもつことで,正当に「怒り」を向けることが目的になります。

もちろん,実際に行動を起こして状況が改善できるなら,それに越したことはありませんので,その後押しもしていきます。パワハラであれば,被害を受けた人が奪われた深層心理的なパワーを取り戻し,パワーを自覚的に用いることはとても有効に働きます。
うつ病になる要因は様々ですが,ストレスに対して適切に対処できずに自律神経や心のバランスを崩すというのが,ひとつの大きな要因と言えます。ストレスの多くは人間関係によるものですが,中でもパワハラ等のハラスメントは対処が難しいと思います。

ハラスメントという言葉は,最近は様々な形で使われますが,受けている本人が不快であったり不利益を被ったり,心を傷つけられたりする行為(言動・行動)を指します。ハラスメントの概念は,アメリカなどで問題視され広がったものですが,パワーハラスメントという用語は日本で生まれたようです。「パワー」という力の行使である点で,上下関係の影響が大きいと考えられます。

「パワー」といっても,上司と部下などの社会的なものもありますし,いじめやDVなどに見られる精神的な力関係,多数派と少数派という数の力などもあります。いずれにしても,力の行使を受けた方は何らかの被害感情をもちます。多くの場合,そこには「怒り」の感情が伴いますが,その「怒り」が無意識に抑圧されたりすることによって,うつ病にまで至るケースがよく見られます。

以前にも,深層心理学としての文脈で,うつ病と「怒り」の関連について書きましたが,パワハラ等のハラスメントで難しいのは,その力関係によって「怒り」をひたすら我慢したり,自分の方が悪いように感じたりして,適切に表出できない点にあります。