こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

不安や恐怖がつきまとうような感覚が不安障害の特徴といえますが,深層心理学的には心の中の大切にしたい何かが脅かされているということになります。不安や恐怖は苦しいですが,ひもといていくとあなたが大切にしたいものを見つけられることが多いです。

例えば,不安や恐怖の対象が,病気や事故などの命に関わるものである場合は,あなたが命のエネルギーをどう使っていくのかがテーマになっている可能性があります。何のために生きるのかという実感や,生きがいを感じられる何かを見つけられると,不安や恐怖は薄れていったりします。不安や恐怖という症状が,より心の深くにあるテーマの自覚を促していることは珍しくありません。

不安や恐怖を避けようとするのは,前回書いたように自然な反応ではありますが,本質的には安全安心を求めての反応といえます。前述の例であれば,本質的には生きることの安全安心を求めているのですが,それが何かに妨げられ思うように生きられない悲しみやつらさが不安や恐怖という症状で表現されているわけです。その症状の意味をひもとくのが,深層心理学的なアプローチです。

不安や恐怖と向き合って,あなたが本当に大切にしたい何かを見つけるためには,ひとりではなかなか難しいので,専門家のカウンセリング/心理療法が必要になります。それを通して,症状の意味をひもとき,本来の自分を取り戻すことが可能になるのです。
パーソナリティ障害は,深層心理学でいう「自我」の脆弱さが共通していますが,「自我」の再形成が始まると,少しずつ葛藤を抱えられるようになります。葛藤を抱えられることにより,抑うつ感が強くなるのですが,カウンセリングとしては順調な過程です。

境界性パーソナリティ障害の場合,対人関係における相手の理想化の失望という葛藤を抱えられるようになることがひとつの目標です。失望を抱えることは,相手に向けていた「怒り」を自分の中にとどめることでもあります。無意識に自分本位な理想化イメージを相手に押しつけて,失望から相手を傷つけたという「罪悪感」が生まれますが,それを一緒に抱えるように関わっていきます。

自己愛性パーソナリティ障害の場合,自分自身に対する理想化の失望という葛藤を抱えられるようになることがひとつの目標です。この場合,自分自身に対する失望を,「怒り」として自分の中にとどめることになりますので,非常に強い抵抗を示します。自分に対する失望を抱えることで「責任感」が生まれてくるので,その人格的成長に対して一緒に認められるように関わっていきます。

この段階での抑うつ感は,幼少時のトラウマ的な体験とつながっているので,セラピストとの関係性が不安定になり中断になることもあります。セラピストとしては,そのトラウマ的な傷つきをいたわるように存在し続ける「器」になることが重要と言えます。
パーソナリティ障害のカウンセリングは,前回書いたような「自我」と呼ばれる心の枠組みの脆弱さを支えながら,ある種の形成不全を再形成するようにアプローチします。その過程は「育て直し」とも呼ばれ,年単位のカウンセリングの継続が必要になります。

境界性パーソナリティ障害の場合,対人関係における理想化とその失望による全否定という極端さがあり,0か100かという認知の仕方が強いので,話を聴きながらその間の10とか90などにとどまれるように一緒に見ていきます。「自我」の水準というのは,葛藤を抱えられるかどうかがひとつの基準ですので,好きと嫌いといった反対の感情等が混在できるように進めていきます。

自己愛性パーソナリティ障害の場合,対人関係において理想化が相手ではなく自分に向いています。自分自身の理想化に対して,葛藤を抱えることができないため,その理想化を脅かす相手に対して否定したり排除したりします。葛藤を抱えられるようにする方向性は,境界性と同じですが,自分自身への失望を抱えることになるため,それをもたらすセラピストを排除したくなりがちです。

パーソナリティ障害は,乳幼児ぐらいの小さい頃のトラウマ的な親子関係が背景にあることが多く,深い心の傷つきを抱えていると言えます。上記のようなアプローチは「介入」に当たりますが,その前提として安定した関係性を継続的に築くことが重要です。
パワハラ等のハラスメントにおいては,加害者側にパーソナリティ障害かそれに類する要因が考えられることが多いのですが,パーソナリティ障害をもつには,幼少時の家庭環境の問題が強く影響しているため,継続的なカウンセリングが必要と考えられます。

ここでは,境界性/自己愛性パーソナリティ障害について書きますが,一部を除いてパーソナリティ障害の人が自らカウンセリングに訪れることは少なく,何かトラブルが起こって周囲の人が困って行かされる形になることも多くあります。加えて,前回書いたような心の枠組みの脆弱さから内省力が弱く,来談を継続する動機にも乏しいので,中断事例も多く報告されているのが実情です。

このため,カウンセリングでは深層心理学で「自我」と呼ばれる,心の枠組みを少しずつ取り戻していくことが中心になります。そのためには,脆弱な心の枠組みを補う外側の枠組みが必要で,カウンセリングの時間や場所といった枠組みを守れるようにし,必要に応じてそこからの逸脱行動について,ルール作りをするということを,言葉の説明を含めて丁寧に進めていくことが重要です。

クライエント本人は,無意識レベルでセラピストから無条件の承認を得ようとするので,そういった枠組みに抵抗を示しますが,その枠組みの中でセラピストが「無条件の肯定的配慮」と呼ばれる関わりを続け,安定した関係性を築いていくことが不可欠です。
前回,双極性障害における「ハイドリーム」と「ロードリーム」について書きましたが,両方に「自己愛」が関連していると言えます。「自己愛」の揺れが,気分の波と連動していくので,健全な「自己愛」を育むことがカウンセリングでも重要になります。

「自己愛」という言葉から,自己愛性パーソナリティ障害を想起される方もいらっしゃると思いますが,パーソナリティ障害を意味しているのではなく,自分で自分の価値を認められる自信のような感覚だと思ってください。「自己愛」の傷つきがあると,双極性の気分の波は共通してみられるので,「自己愛性」「境界性」などのパーソナリティ障害にも関連する内容ではあるのですが。

「自己愛」の傷つきは「ロードリーム」に反映されるので,うつ状態の極の時期には,「自己愛」のどういう側面に傷つきがあるのかを「ロードリーム」に見出していくことが,その傷つきを癒し抑うつの症状を軽減することに役立ちます。傷つきの傾向を知ることで,その傷が刺激されないようにする「守り」が心の中につくられることで,気分の波を安定させる予防にもつながります。

「自己愛」の傷つきが深いほど「ハイドリーム」に逃げ込みたくなり,気分の波は不安定になるので,「ロードリーム」から気づく「守り」と,前回書いた「ハイドリーム」から気づく自己イメージを生きる方向性が,カウンセリングの両輪になっていきます。
双極性障害では躁状態の極とうつ状態の極の二極があり,深層心理的には二つの極の自己イメージを扱うことが大切になります。プロセスワークの,「ハイドリーム」の「ロードリーム」と呼ばれる無意識レベルのイメージにまで深めるアプローチも重要です。

双極性は,英語では"bipolar"と表記し,'bi'(2つの)+'polar'(極性)をもつという意味です。磁石のN極とS極のように二極性のものを指す単語ですが,この2つの極は両方あることでその働きが活きてくるわけです。双極性障害でも,うつ状態の自己イメージが「否認」されてしまうと,極性のバランスが崩れ,躁状態の自己イメージもうまく活かせなくなってしまうことになります。

躁状態の無意識には「ハイドリーム」があり,理想の自分やある種の万能感に浸っているような感覚が無意識レベルにあるので,そこにとどまりたくなります。そうすると,うつ状態の「ロードリーム」は「ハイドリーム」の世界をおびやかすものになり,「ハイドリーム」に逃げ込むようになります。このアンバランスさが,現実的な検討を困難にして,問題のある行動に走らせたりします。

「ハイドリーム」は文字通り夢(無意識)の次元なので,どんな「ハイドリーム」に動かされてるのかに気づきを向けて,自覚的に現実の中でその自己イメージを生きられるように,一緒に考えていくことも,カウンセリングの重要な方向性になっていきます。
双極性障害の気分の波を乗りこなす「波乗り」というのは,気分の波を全体的に俯瞰できる感覚を身につけることが重要です。本来はその感覚をもっているはずなのですが,気分の波が不安定になったことで見失っているので,取り戻すという方が適切ですね。

前回も,気分の波の振幅の中心に自分の基準を置くと書きましたが,うつ状態に対する不安や恐怖が強かったり,防衛機制の「否認」が働いていると,なかなか難しくなります。このため,カウンセリングの初期にはそれらをやわらげることが優先されます。振幅の中心というのは,気分の波を安定させる心の軸でもあるので,落ちついたらその振幅の中心を見つけていくように進めます。

気分の波は,振幅の中心軸にいることで,その方向や傾きの度合いがわかりますから,それに合わせて波に乗っていくイメージです。今,自分の気分の波がどうなっているのかがわからなければ,その波に振り回されてしまいます。うつ状態の極に向かうときにも,その波に乗っていけば,自然な波の流れでその極を越えて,早く中心側に戻っていく上向きの波に乗れるようになります。

うつ状態の極に向かう下向きの波の時期には,自分と向き合ったり今後の方向性を見直したりして,上向きの波の時に落ちついて最大限のパフォーマンスを発揮する準備ができます。下向きの波にうまく乗れてこそ,上向きの波にもうまく乗れるようになれます。
双極性障害は,躁うつ病とも呼ばれますが,気分の波があり,上がったときが躁状態,下がったときがうつ状態となります。躁状態の方が,思考や行動面の逸脱はあるものの,気持ちも高まり元気なので,躁状態の方に健康な自分の基準を置きやすくなります。

躁状態に健康な自分の基準を置くと,うつ状態は病的な自分と感じることになりますが,こうなるとうつ状態だけが注目されるため,「うつ病」と間違いやすくなります。双極性障害は,気分の波が不安定になることが中核的な症状なので,躁状態もうつ状態も自分の気分の波の中にあることを俯瞰するように,波の振幅の中心に自分の基準を置けるようになることが,とても重要です。

とはいえ,うつ状態の方に落ちていくような方向の波のときは苦しく,不安や恐怖が伴いますから,早く抜け出したいと思うのも無理もないことです。「否認」という防衛機制が働くのも,そういう自分を見たくない,それが自分の一部だと認めたくないための反応です。すると,何とか気分を落とさないようにとエネルギーを使ってしまい,安定のためのエネルギーが失われてしまいます。

多くの人が,この悪循環に陥って気分を安定させる方向に心のエネルギーを使えず,悪化させてしまいます。カウンセリングでは,うつ状態に落ちる不安や恐怖を受けとめながら緩和し,全体の気分の波の乱れを安定させるようにアプローチしていきます。
双極性障害には,Ⅰ型とⅡ型がありますが,いずれも薬物療法とカウンセリングの併用が重要になります。Ⅱ型のカウンセリング経験が多いため,このブログでは基本的に,躁状態が比較的マイルドなⅡ型について,深層心理学的な視点で書いていきます。

Ⅰ型の人にも参考になるとは思いますが,Ⅱ型を含めて,薬物療法を続けて気分の波が落ちついていることが,カウンセリングの前提になります。方向性としては,二極化した自己イメージの統合と,僕が「(気分の)波乗り」と呼んでいるセルフケアを身につけていくことが主になります。「波乗り」が自然にできるようになれば,減薬していき薬をやめることも可能だと考えています。

二極化した自己イメージというのは,双極性障害の人や僕のような双極的な気質をもっている人の多くに見られます。それは,躁状態の極の自己イメージと抑うつ状態の極の自己イメージに二極化しているわけです。そして,抑うつ状態の極の自己イメージは,防衛機制によって「否認」されていて,躁状態の極の自己イメージに同一化(それが自分だと思うこと)していると言えます。

躁(Ⅱ型の軽躁)状態は,気分がのっていてアイデアが次々に出てきますし,集中力も高く能力を最大限に発揮し成果に表れます。抑うつ状態を自分じゃないように感じるのも自然な気持ちですが,双方の極を受け容れ統合することで気分は安定していきます。
前回,トラウマ的な体験による自分自身への「怒り」が,「解離」という防衛機制につながると書きましたが,「解離」が起きると「怒り」が切り離されたようになり,他の理不尽な場面でも「怒り」を感じることができなくなっていることが多くあります。

アレキシサイミア(失感情症)という状態像がありますが,「解離」との関連性が指摘されています。アレキシサイミアも,感情を感じられなくなっている点では共通していて,感情を「解離」させるようなトラウマ的な体験が背景にある可能性が高いと言えます。うつ病における「怒り」や,その引き金になった「悲しみ」「後悔」といった感情も,同様に「解離」されることがあります。

アレキシサイミア(失感情症)傾向の人が,心身症と呼ばれる様々な身体症状を訴えることは典型的とも言えますが,「仮面うつ病」と呼ばれる,抑うつ症状よりも身体症状を主訴として医療機関を受診するタイプのうつ病も,共通点が多いのが特徴です。いずれにしても,感情に対して「解離」を用いるというパターンを変えていくことが,カウンセリングの中長期的な目標になります。

「解離」といっても様々ですが,トラウマ的な体験が背景にあるため,薬物療法やカウンセリングで症状が緩和されても,対症療法にしかなりません。根本的には,トラウマ的な傷つきが癒されるような,継続的な心理療法のアプローチが重要なのです。