こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

トラウマという用語が一般的になったのは,平成の時代を通してという感じがありますが,精神分析学をはじめとする深層心理学では,過去に心の傷を受けた外傷体験が,現在の精神症状やパーソナリティ傾向に強い影響を及ぼしているという考え方になります。

トラウマは「心的外傷」と訳されますが,心の傷は体の傷のように短期間で自然に治るわけではなく,長期間にわたって影響を及ぼしますので,質が異なるといえます。もちろん,トラウマが治らないというわけではなく,カウンセリング/心理療法によって癒されていくことが充分に可能です。ただ,やみくもにトラウマを掘り起こそうとするアプローチは危険を伴うので注意が必要です。

トラウマは,一般的には気軽に使われている感がありますが,本来的には無意識レベルのもので,精神症状やパーソナリティ傾向の背後に隠れています。無意識レベルに眠っているトラウマに触れると,より重篤な症状が現れる場合があります。自覚できているトラウマは比較的軽いもので,もちろん苦痛はありますが,日常生活をおびやかすことは少ないか,一過性の場合がほとんどです。

難治性のうつ病の背景にもトラウマが潜んでいる場合があり,長期的なカウンセリングが必要になります。症状が出ているということはトラウマを扱える時期にきているといえるので,トラウマと向き合っていくために,安心できる信頼関係が重要となります。
何らかの強い不安によって,日常生活に支障をきたすものを総称して「不安障害」と呼びます。その中には,人に対する不安が中心にある「社会不安障害」や,場面や状況に対する不安が中心にある「パニック障害」が含まれており,症状は多岐にわたります。

「不安障害」の中には,「広場恐怖症」といった形で「恐怖」という用語も含まれますが,「恐怖」は対象が概ね特定できるものを指します。一般的に,高所恐怖症とよく言われますが,高い場所という特定できるものに不安の対象が決まっているので「恐怖」と呼びます。それに対して,特定できない漠然としたものに対する強い心配を「不安」と呼んでいて,基本的に区別されています。

不安障害のカウンセリングで最初にお伝えするのは,「不安」や「恐怖」は命を守るために本能的に備わっているものだということです。心のバランスがとれなくなって,不安や恐怖を感じる感度が上がっている状態です。高所恐怖症を挙げましたが,これは診断名には入っていません。高いところから落ちたら命に危険が及ぶので,そういう状況に恐怖を感じるのは自然な反応だからです。

うつ病と不安障害が併発することも知られていますが,どちらも神経伝達物質のセロトニンの関与が指摘されているので,うつ病の悪化で不安障害の症状が出てきたり,その逆も起こりやすいと考えられます。いずれにしても,早めのカウンセリングが有効です。
仮面うつ病は,アレキシサイミア(失感情症)との関連が深く,カウンセリングのアプローチで比較的多い,感情に触れていこうとする問いかけは,あまり効果を発揮しません。感情を感じるのが難しいために身体化しているので,感情と向き合いづらいのです。

フォーカシングやプロセスワークといった身体的アプローチは,身体感覚として表現された無意識レベルの感情にアクセスするのに役立ちます。心身症の一種といえる仮面うつ病では,身体的な痛みを訴えることが多いのですが,頭痛が「頭が重い」という身体感覚で表現されるように,抑うつ感が背景にある痛みをていねいに感じていくと,「重さ」として表現される傾向が多くあります。

身体の「重さ」は心の「重さ」でもあります。一般的なうつ病でも倦怠感という形で身体の「重さ」が症状として表れ,朝起きようとしても身体が動かないほどになることがあります。「重さ」の身体感覚がイメージを伴ってくると,上から抑えつけられるようなプレッシャーを感じて,それに対する怒りや悲しみという感情を感じ始めるので,それをカウンセリング的に受容していきます。

アレキシサイミア(失感情症)は,子どものときに自分の感情を受けとめられず否定されたような経験が主な背景にありますので,感情をありのままに受けとめられる体験が重要です。それによって抑うつ感を感じられるようになると,症状も改善していきます。
仮面うつ病は,身体の痛みなどの症状として感じられることが多いのですが,それは心の痛みを身体で表現している心身症といえます。心身症は,診断基準であるDSM-5では「身体症状症」にあたりますが,ここでは古典的な用語の「心身症」と表記します。

不登校の子どもなどが,頭痛や腹痛を訴えるのも心身症の一種です。この背景に,仮面うつ病に近い抑うつ気分があることも多く,その気持ちが語られるように話を聴いていくカウンセリングが重要になります。また,周囲も子どもが訴える痛みを仮病のようにあしらうことなく,心の痛みを表現しているのだと受けとめるような関わりをしていくと,気持ちも語られやすくなっていきます。

心身症は,アレキシサイミア(失感情症)との関連が深いと前回書きましたが,自分の気持ちが聴いてもらえない,わかってもらえないといった経験を重ねた子どもは,感情表現が乏しくなります。自分のの気持ちを表現しないことが常態化すると,無意識化した感情は身体症状として表れます。そのまま大人になると,仮面うつ病になりやすく,聴いてもらえるという体験が重要なのです。

感情を出すことにトラウマ的な心の傷つきがからんでいると,カウンセリングで気持ちを聴かれることに抵抗感を示したりします。抵抗感も表現されづらいので中断にもなりやすく,箱庭やアートセラピーなどの視覚的な表現が有効なケースも多いと言えます。
うつ病の中には,抑うつ感の訴えが少なく,身体症状を中心に訴える場合があり,このタイプは「仮面うつ病」と呼ばれます。症状としては,頭痛や胃痛などの痛みとして感じられることが多く,内科的に診察を受けても異常がみられないものが当てはまります。

ストレスに起因する身体症状で,内科的疾患が明確でないものを「心身症」と呼び,「仮面うつ病」と類似しているので混同されがちです。「仮面うつ病」も「心身症」も,精神科等の診断基準であるDSM-5の正式な診断名ではないのですが,「心身症」では抑うつ気分が隠れているとは限らないので,「心身症」の中で強い抑うつ気分を伴うものが「仮面うつ病」と言ってもいいでしょう。

「心身症」はアレキシサイミア(失感情症)との関連が深く,自分の感情と向き合うことが難しい場合が多いため,「仮面うつ病」も難治ケースが多いと言えます。感情として表現するのが難しい代わりに,身体症状として表現していると考えられるので,無理に感情と向き合わせるよりも,身体の痛みを心の痛みとして聴いていき,ストレスを感じていることを共感していくようにします。

また,心と身体のつながりが失われていることが多いので,痛みなどの身体症状に焦点を当てるフォーカシングやプロセスワークを活用していくことも多くあります。身体症状を一緒に受けとめていくカウンセリングを通して,症状の捉え方が変わっていきます。
家族システムを背景にしたうつ病について書いてきましたが,心が弱いからうつ病になるというわけではなく,様々な要因が背景にあるということを知っていただきたいと願っています。心の専門家の仕事は,背景にある要因をていねいに把握していくことです。

家族療法では,家族の中で不適応や疾患を生じた人をIP(Identified Patient)と呼び,家族システムの歪みをたまたま引き受けている人というニュアンスがあります。システム論的には,その構造が変化すれば,IPである必要がなくなったり,IPが別の人に替わったりすると考えます。このため,IP本人でなくても,別の家族がカウンセリングにより変化をもたらしてもいいのです。

家族システムの中で,IPが家族を安定させる役割をとっていることがあります。例えば,両親が不仲で離婚しそうなときに,子どもが不登校になったり病気になったりすることで,両親の目が子どもに向き,協力する気持ちになった場合などです。子どもはとても敏感に家族システムの歪みを感じとっていて,無意識にそうなってしまうので,意図的にそうしていることはほぼありません。

このようなシステム論は,他の精神疾患の背景を考えるときも有用ですし,家族だけでなく,会社など組織の構造をみていくのにも役に立ちます。社員などのメンタルヘルスにはもちろんですが,問題を通して家族や組織を改善するヒントにもなっていきます。
前回書いたように,難治性のうつ病の背景に家族システムが強く影響しているケースがあります。うつ病は,心理的に見ると心的エネルギーの枯渇が大きな要因ですが,家族システムがこの心的エネルギーを剥奪するような構造になっている場合がよくあります。

子どもは,親の愛情という心的エネルギーが注がれることで心が成長していきます。親の心的エネルギーが子どもでなく他の方に向けられるだけでも,子どもの心的エネルギーは枯渇していき,不登校などにつながります。子どもに,親の自尊心を満たすために利用するような関わりをすると,子どもの心的エネルギーが搾取され,子どもの心が歪んだ形で成長していく危険性が高まります。

家族システムの歪みは,大人になっても心の磁場のように影響します。同居のままの方がシステム構造の中にとどまるので影響は強いですが,独り暮らしなどでも心の磁場としては残ります。そうすると,例えばその家族の中で「我慢する」という方向で生き残り戦略を身につけると,他の場所や人間関係でも「我慢する」がパターン化され,うつ病になりやすい素地が形成されていきます。

このような,家族システムに起因する心の磁場のありように一緒に気づいていくことは,カウンセリング/心理療法で有用です。心の磁場に,パートナーや新しい家族が影響されることも多いので,カップルカウンセリングが勧められるケースも結構あります。
うつ病に家族関係の要因がからみあっていることがあり,家族関係の中でうつ病がある種の役割を果たしているような場合,なかなか改善しないケースがあります。このような場合,クライエント(相談者)と家族との関係性をていねいに扱う必要があります。

家族療法の実践から生まれたシステム論は,家族関係をひもとく上でとても有用だと感じています。家族全体をひとつの有機体のようなシステムとして捉え,そのシステムに生じている歪みが家族の主に弱い立場の人に表れるという考え方です。多くは,子どもに表れて不登校やひきこもりなどにつながりますが,その構造が大人になっても維持されると,うつ病という形でも表れてきます。

例えば,疾病利得と呼ばれる,病気であることが本人にとって心理的な渇望を満たすということがあります。うつ病であることで心配されたりやさしくされることが,本人がケアされたい渇望を満たしていると,うつ病が治ることが弊害になるため,なかなかよくなりません。その背景に,ケアすることが自分の存在意義になってしまっている家族がいる場合,共依存のようになりがちです。

子どもの心理的な成長が後れる要因として,親の過干渉がよく見られますが,子どもが成長して自分でできるようになると,親の存在意義が無意識に脅かされるのです。そういうシステム構造の中では,子どもがケアされる側でいることが無意識に強いられます。
うつ病には不眠症が伴うことがとても多く,不眠症のケアは重要な要素なのですが,意外に無頓着な方が多いと感じています。睡眠環境や生活習慣を見直してみることも,不眠症のケアには有効ですので,今回はそのあたりのことについて書きたいと思います。

まず,睡眠時間ですが,何時間くらい眠ればいいのかと聞かれることも結構あります。しかし,それには個人差が結構あって一概には言えないことと,睡眠の質が悪いと何時間寝ても足りない感じになります。睡眠の質は,目覚めたときの熟睡感やスッキリした感じなどの感覚的なものが指標になります。枕が合っているかや寝具の心地よさも影響しますので,相談してみることも大切です。

自律神経の交感神経が刺激されると,入眠困難につながりますので,就寝前の1~2時間ぐらいは食事や入浴まで済ませて,リラックスして過ごすようにしましょう。視覚的な刺激や強い光も交感神経を刺激するので,パソコンやスマホなどは控えることをお勧めします。部屋の照明は抑えて,できれば間接照明にして,軽いストレッチをしたり,日中の体の緊張やコリをほぐすようにします。

眠れないというのでよく話を聴くと,就寝する直前までパソコンで仕事など神経を使う作業をしているという人も結構おられます。睡眠を無駄な時間と感じている場合も不眠症につながります。眠る心地よさを味わうような感覚をもつのが,改善のポイントです。
前回までは不眠症について書きましたが,概日リズム睡眠障害という睡眠障害も,不眠症の中の入眠困難と関連してきます。概日リズム睡眠障害というのは,24時間の周期的な睡眠リズムが崩れていくことで,入眠困難が生じたり,昼夜逆転になったりします。

概日リズム睡眠障害は,基本的に睡眠リズムが後の方にズレていくため,起きる時間が遅くなっていき,朝起きれないために遅刻を繰り返したり,頑張って起きても体が思うように動かないとか頭がボーッとするなどして,子どもの場合は不登校につながっていくことが多くあります。入眠困難によって睡眠不足が続くことで悪循環につながり,うつ病のリスク要因にもなってしまうのです。

睡眠リズムは25時間程度と言われ,目から朝日の刺激が入ることでリセットされて,24時間周期が保たれると言われています。このため,医療機関では光療法という強制的に光を浴びせる治療法があります。それほど重度でなければ,寝る前にブルーライトを目に入れないようにして,朝起きたらカーテンを開けて外の光を浴びたり,外を少し散歩したりすることで,改善が見込めます。

昼夜逆転までズレてしまったなら,元に戻そうとするよりはズレる方向にあと半周させる方が体の自然には合っています。時差ボケに対処する要領で,頑張って眠らずに日中を過ごし,夜になってから寝る方が合わせやすいと思いますので,試してみてください。