こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

家族システムを背景にしたうつ病について書いてきましたが,心が弱いからうつ病になるというわけではなく,様々な要因が背景にあるということを知っていただきたいと願っています。心の専門家の仕事は,背景にある要因をていねいに把握していくことです。

家族療法では,家族の中で不適応や疾患を生じた人をIP(Identified Patient)と呼び,家族システムの歪みをたまたま引き受けている人というニュアンスがあります。システム論的には,その構造が変化すれば,IPである必要がなくなったり,IPが別の人に替わったりすると考えます。このため,IP本人でなくても,別の家族がカウンセリングにより変化をもたらしてもいいのです。

家族システムの中で,IPが家族を安定させる役割をとっていることがあります。例えば,両親が不仲で離婚しそうなときに,子どもが不登校になったり病気になったりすることで,両親の目が子どもに向き,協力する気持ちになった場合などです。子どもはとても敏感に家族システムの歪みを感じとっていて,無意識にそうなってしまうので,意図的にそうしていることはほぼありません。

このようなシステム論は,他の精神疾患の背景を考えるときも有用ですし,家族だけでなく,会社など組織の構造をみていくのにも役に立ちます。社員などのメンタルヘルスにはもちろんですが,問題を通して家族や組織を改善するヒントにもなっていきます。
前回書いたように,難治性のうつ病の背景に家族システムが強く影響しているケースがあります。うつ病は,心理的に見ると心的エネルギーの枯渇が大きな要因ですが,家族システムがこの心的エネルギーを剥奪するような構造になっている場合がよくあります。

子どもは,親の愛情という心的エネルギーが注がれることで心が成長していきます。親の心的エネルギーが子どもでなく他の方に向けられるだけでも,子どもの心的エネルギーは枯渇していき,不登校などにつながります。子どもに,親の自尊心を満たすために利用するような関わりをすると,子どもの心的エネルギーが搾取され,子どもの心が歪んだ形で成長していく危険性が高まります。

家族システムの歪みは,大人になっても心の磁場のように影響します。同居のままの方がシステム構造の中にとどまるので影響は強いですが,独り暮らしなどでも心の磁場としては残ります。そうすると,例えばその家族の中で「我慢する」という方向で生き残り戦略を身につけると,他の場所や人間関係でも「我慢する」がパターン化され,うつ病になりやすい素地が形成されていきます。

このような,家族システムに起因する心の磁場のありように一緒に気づいていくことは,カウンセリング/心理療法で有用です。心の磁場に,パートナーや新しい家族が影響されることも多いので,カップルカウンセリングが勧められるケースも結構あります。
うつ病に家族関係の要因がからみあっていることがあり,家族関係の中でうつ病がある種の役割を果たしているような場合,なかなか改善しないケースがあります。このような場合,クライエント(相談者)と家族との関係性をていねいに扱う必要があります。

家族療法の実践から生まれたシステム論は,家族関係をひもとく上でとても有用だと感じています。家族全体をひとつの有機体のようなシステムとして捉え,そのシステムに生じている歪みが家族の主に弱い立場の人に表れるという考え方です。多くは,子どもに表れて不登校やひきこもりなどにつながりますが,その構造が大人になっても維持されると,うつ病という形でも表れてきます。

例えば,疾病利得と呼ばれる,病気であることが本人にとって心理的な渇望を満たすということがあります。うつ病であることで心配されたりやさしくされることが,本人がケアされたい渇望を満たしていると,うつ病が治ることが弊害になるため,なかなかよくなりません。その背景に,ケアすることが自分の存在意義になってしまっている家族がいる場合,共依存のようになりがちです。

子どもの心理的な成長が後れる要因として,親の過干渉がよく見られますが,子どもが成長して自分でできるようになると,親の存在意義が無意識に脅かされるのです。そういうシステム構造の中では,子どもがケアされる側でいることが無意識に強いられます。