こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

トラウマと呼ばれるレベルの心の傷は,心身の強い緊張状態を引き起こし常態化していくという点を前回書きました。身体的な緊張状態は,身体感覚としてのおびえるような感じやそこにいられないような落ちつかなさを引き起こし,日常生活をおびやかします。

これは,生存をおびやかすような状況を逃げだしたいのに逃げられず,耐えるしかないという心理状態を表す身体感覚ですが,子どもの頃などの過去であっても,その記憶が自律神経のバランスを崩し続けていきます。症状としては,心身症という形で様々な身体症状を引き起こしますが,体の症状に焦点が当たると,トラウマという本質的な要因に気づかずに苦しみが続くことも多いです。

身体感覚からアプローチする,フォーカシングやプロセスワークなどによって,身体感覚から深層心理につながっていくと,その身体症状の背景にあるトラウマに触れることがあります。トラウマは,何らかの「危険」という感覚が伴っていますが,カウンセリングを通して「安全」な感覚をもてるようにして,過去の「危険」ではなく,今ここにある「安全」を感じられることが重要です。

トラウマに対する心身の反応は,自分の生存を守るために本能的に備わっている自然な働きです。その反応が続いて苦しい状態ではあるのですが,その呪縛から解放されると,その働きを現在の状況で自分を守ったり自分らしさを取り戻す気づきにつながります。
トラウマのような心の傷は,命そのものやその人の存在をおびやかすため,心身の強い緊張状態に置かれます。それが慢性化していくと,緊張状態が普通になってしまい,外傷体験を忘れていても「気が休まらない」という感覚は絶えずあるのがほとんどです。

トラウマの治療法のひとつとして知られるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)では,眼球運動による脱感作とあるように眼球運動を通して自律神経の副交感神経に働きかけるものです。脱感作というのは,トラウマに伴う緊張状態による神経系の興奮をしずめることを意味しており,トラウマに類似した刺激による反応を緩和し,結果的にトラウマによる心身の反応を改善します。

同様の機序は,自律訓練法を用いることでも可能です。自律訓練法は,身体感覚を用いた脱感作法でもあり,EMDRでは眼球運動を用い,自律訓練法では身体感覚を用いるという点で異なりますが,トラウマに伴う緊張状態に対して自律神経系に働きかける点では共通しています。当オフィスでは,自律訓練法をベースに,身体的アプローチによる無意識レベルへの働きかけを行っています。

自律訓練法は,やり方を覚えれば自分でも身につけられますし,日常でも起こりうるトラウマの反応に対処しやすくなります。また,カウンセリングに来室された時にも,習慣的に身につけておくことでよりスムーズに進めることが可能になる点が特徴です。
トラウマという用語が一般的になったのは,平成の時代を通してという感じがありますが,精神分析学をはじめとする深層心理学では,過去に心の傷を受けた外傷体験が,現在の精神症状やパーソナリティ傾向に強い影響を及ぼしているという考え方になります。

トラウマは「心的外傷」と訳されますが,心の傷は体の傷のように短期間で自然に治るわけではなく,長期間にわたって影響を及ぼしますので,質が異なるといえます。もちろん,トラウマが治らないというわけではなく,カウンセリング/心理療法によって癒されていくことが充分に可能です。ただ,やみくもにトラウマを掘り起こそうとするアプローチは危険を伴うので注意が必要です。

トラウマは,一般的には気軽に使われている感がありますが,本来的には無意識レベルのもので,精神症状やパーソナリティ傾向の背後に隠れています。無意識レベルに眠っているトラウマに触れると,より重篤な症状が現れる場合があります。自覚できているトラウマは比較的軽いもので,もちろん苦痛はありますが,日常生活をおびやかすことは少ないか,一過性の場合がほとんどです。

難治性のうつ病の背景にもトラウマが潜んでいる場合があり,長期的なカウンセリングが必要になります。症状が出ているということはトラウマを扱える時期にきているといえるので,トラウマと向き合っていくために,安心できる信頼関係が重要となります。
不安や恐怖がつきまとうような感覚が不安障害の特徴といえますが,深層心理学的には心の中の大切にしたい何かが脅かされているということになります。不安や恐怖は苦しいですが,ひもといていくとあなたが大切にしたいものを見つけられることが多いです。

例えば,不安や恐怖の対象が,病気や事故などの命に関わるものである場合は,あなたが命のエネルギーをどう使っていくのかがテーマになっている可能性があります。何のために生きるのかという実感や,生きがいを感じられる何かを見つけられると,不安や恐怖は薄れていったりします。不安や恐怖という症状が,より心の深くにあるテーマの自覚を促していることは珍しくありません。

不安や恐怖を避けようとするのは,前回書いたように自然な反応ではありますが,本質的には安全安心を求めての反応といえます。前述の例であれば,本質的には生きることの安全安心を求めているのですが,それが何かに妨げられ思うように生きられない悲しみやつらさが不安や恐怖という症状で表現されているわけです。その症状の意味をひもとくのが,深層心理学的なアプローチです。

不安や恐怖と向き合って,あなたが本当に大切にしたい何かを見つけるためには,ひとりではなかなか難しいので,専門家のカウンセリング/心理療法が必要になります。それを通して,症状の意味をひもとき,本来の自分を取り戻すことが可能になるのです。
前回書いたように,不安や恐怖は自分を守るための自然な反応です。ただ,心のバランスを崩してしまうと,不安や恐怖が襲ってくるような感じで,日常生活に支障をきたしてしまいます。その心のバランスをとるのが,カウンセリング/心理療法となります。

不安や恐怖が大きくなっていると安全安心が脅かされるため,それを避けようとするのも自然な反応です。「社会不安障害」や「パニック障害」などは,そのような場面を避けようとします。「強迫性障害」も不安が大きな要因ですが,不安を避ける形で安全安心を何とか得ようとする行為が症状となっています。このような意味で,症状が出ている時は逃走反応が出ている状態といえます。

ここで「逃走反応」と書いたのは,危険に対する動物的な反応のことで,自律神経系の乱れを表しています。不安や恐怖に対しての症状は,強い緊張状態といえますが,自律神経系では交感神経の亢進となり,それが極端になるのが「過呼吸」や「パニック発作」と呼ばれる症状です。これらの発作的な症状がない時にも,交感神経の優位が続き,副交感神経がうまく働かなくなっています。

この発作的な症状に対しては,抗不安薬などが処方されますが,不安や恐怖に対する感受性を麻痺させるような形で働くと思われます。カウンセリングでは,自律訓練法や呼吸法を身につけて,副交感神経の働きを改善して交感神経を抑制する方向を目指します。
何らかの強い不安によって,日常生活に支障をきたすものを総称して「不安障害」と呼びます。その中には,人に対する不安が中心にある「社会不安障害」や,場面や状況に対する不安が中心にある「パニック障害」が含まれており,症状は多岐にわたります。

「不安障害」の中には,「広場恐怖症」といった形で「恐怖」という用語も含まれますが,「恐怖」は対象が概ね特定できるものを指します。一般的に,高所恐怖症とよく言われますが,高い場所という特定できるものに不安の対象が決まっているので「恐怖」と呼びます。それに対して,特定できない漠然としたものに対する強い心配を「不安」と呼んでいて,基本的に区別されています。

不安障害のカウンセリングで最初にお伝えするのは,「不安」や「恐怖」は命を守るために本能的に備わっているものだということです。心のバランスがとれなくなって,不安や恐怖を感じる感度が上がっている状態です。高所恐怖症を挙げましたが,これは診断名には入っていません。高いところから落ちたら命に危険が及ぶので,そういう状況に恐怖を感じるのは自然な反応だからです。

うつ病と不安障害が併発することも知られていますが,どちらも神経伝達物質のセロトニンの関与が指摘されているので,うつ病の悪化で不安障害の症状が出てきたり,その逆も起こりやすいと考えられます。いずれにしても,早めのカウンセリングが有効です。
仮面うつ病は,アレキシサイミア(失感情症)との関連が深く,カウンセリングのアプローチで比較的多い,感情に触れていこうとする問いかけは,あまり効果を発揮しません。感情を感じるのが難しいために身体化しているので,感情と向き合いづらいのです。

フォーカシングやプロセスワークといった身体的アプローチは,身体感覚として表現された無意識レベルの感情にアクセスするのに役立ちます。心身症の一種といえる仮面うつ病では,身体的な痛みを訴えることが多いのですが,頭痛が「頭が重い」という身体感覚で表現されるように,抑うつ感が背景にある痛みをていねいに感じていくと,「重さ」として表現される傾向が多くあります。

身体の「重さ」は心の「重さ」でもあります。一般的なうつ病でも倦怠感という形で身体の「重さ」が症状として表れ,朝起きようとしても身体が動かないほどになることがあります。「重さ」の身体感覚がイメージを伴ってくると,上から抑えつけられるようなプレッシャーを感じて,それに対する怒りや悲しみという感情を感じ始めるので,それをカウンセリング的に受容していきます。

アレキシサイミア(失感情症)は,子どものときに自分の感情を受けとめられず否定されたような経験が主な背景にありますので,感情をありのままに受けとめられる体験が重要です。それによって抑うつ感を感じられるようになると,症状も改善していきます。
仮面うつ病は,身体の痛みなどの症状として感じられることが多いのですが,それは心の痛みを身体で表現している心身症といえます。心身症は,診断基準であるDSM-5では「身体症状症」にあたりますが,ここでは古典的な用語の「心身症」と表記します。

不登校の子どもなどが,頭痛や腹痛を訴えるのも心身症の一種です。この背景に,仮面うつ病に近い抑うつ気分があることも多く,その気持ちが語られるように話を聴いていくカウンセリングが重要になります。また,周囲も子どもが訴える痛みを仮病のようにあしらうことなく,心の痛みを表現しているのだと受けとめるような関わりをしていくと,気持ちも語られやすくなっていきます。

心身症は,アレキシサイミア(失感情症)との関連が深いと前回書きましたが,自分の気持ちが聴いてもらえない,わかってもらえないといった経験を重ねた子どもは,感情表現が乏しくなります。自分のの気持ちを表現しないことが常態化すると,無意識化した感情は身体症状として表れます。そのまま大人になると,仮面うつ病になりやすく,聴いてもらえるという体験が重要なのです。

感情を出すことにトラウマ的な心の傷つきがからんでいると,カウンセリングで気持ちを聴かれることに抵抗感を示したりします。抵抗感も表現されづらいので中断にもなりやすく,箱庭やアートセラピーなどの視覚的な表現が有効なケースも多いと言えます。
うつ病の中には,抑うつ感の訴えが少なく,身体症状を中心に訴える場合があり,このタイプは「仮面うつ病」と呼ばれます。症状としては,頭痛や胃痛などの痛みとして感じられることが多く,内科的に診察を受けても異常がみられないものが当てはまります。

ストレスに起因する身体症状で,内科的疾患が明確でないものを「心身症」と呼び,「仮面うつ病」と類似しているので混同されがちです。「仮面うつ病」も「心身症」も,精神科等の診断基準であるDSM-5の正式な診断名ではないのですが,「心身症」では抑うつ気分が隠れているとは限らないので,「心身症」の中で強い抑うつ気分を伴うものが「仮面うつ病」と言ってもいいでしょう。

「心身症」はアレキシサイミア(失感情症)との関連が深く,自分の感情と向き合うことが難しい場合が多いため,「仮面うつ病」も難治ケースが多いと言えます。感情として表現するのが難しい代わりに,身体症状として表現していると考えられるので,無理に感情と向き合わせるよりも,身体の痛みを心の痛みとして聴いていき,ストレスを感じていることを共感していくようにします。

また,心と身体のつながりが失われていることが多いので,痛みなどの身体症状に焦点を当てるフォーカシングやプロセスワークを活用していくことも多くあります。身体症状を一緒に受けとめていくカウンセリングを通して,症状の捉え方が変わっていきます。
家族システムを背景にしたうつ病について書いてきましたが,心が弱いからうつ病になるというわけではなく,様々な要因が背景にあるということを知っていただきたいと願っています。心の専門家の仕事は,背景にある要因をていねいに把握していくことです。

家族療法では,家族の中で不適応や疾患を生じた人をIP(Identified Patient)と呼び,家族システムの歪みをたまたま引き受けている人というニュアンスがあります。システム論的には,その構造が変化すれば,IPである必要がなくなったり,IPが別の人に替わったりすると考えます。このため,IP本人でなくても,別の家族がカウンセリングにより変化をもたらしてもいいのです。

家族システムの中で,IPが家族を安定させる役割をとっていることがあります。例えば,両親が不仲で離婚しそうなときに,子どもが不登校になったり病気になったりすることで,両親の目が子どもに向き,協力する気持ちになった場合などです。子どもはとても敏感に家族システムの歪みを感じとっていて,無意識にそうなってしまうので,意図的にそうしていることはほぼありません。

このようなシステム論は,他の精神疾患の背景を考えるときも有用ですし,家族だけでなく,会社など組織の構造をみていくのにも役に立ちます。社員などのメンタルヘルスにはもちろんですが,問題を通して家族や組織を改善するヒントにもなっていきます。