こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

アダルトチルドレンやHSPといった生きづらさを抱えている人は,そうでない人に比べるとうつ病などの精神疾患になってしまう可能性が高いと言えます。今回は,アダルトチルドレンを中心に取り上げて,カウンセリング/心理療法について書いていきます。

アダルトチルドレンは,子どもの頃の家庭環境に何らかの要因があると考えられるため,それが虐待などトラウマになるレベルであれば,診断名としてはパーソナリティ障害に該当する場合も結構あります。命に関わるような虐待などでは,PTSDや解離性同一性障害(いわゆる多重人格)も充分あり得ますので,トラウマに対するカウンセリング/心理療法が中心になることが多いです。

もともと,アダルトチルドレンの概念は,これらの診断名がつくような病態水準ではなかったと思いますが,自分がアダルトチルドレンだと感じている人の中には,診断名がつくような方も結構おられます。また,虐待的な家庭環境で育つことによって,発達障害に類似した状態像を呈することが多くあり,家庭環境の情報や本人がどのような経験をしてきたのかを振り返ることも大切です。

ただし,トラウマによる傷つきが深い場合には,安易に振り返ることは悪化する危険を伴いますので,長期的なカウンセリングのもとで,どのような状態にあるのかの見立てを丁寧に行いながら,安全な形でひもといていくような取り組みが重要になってきます。
アダルトチルドレンやHSPという言葉は,クライエントさんが使うことは多いのですが,診断名ではなく判断基準のあいまいさもあるので,専門家としては積極的には使いません。しかし,自分の生きづらさを表すのにピッタリな場合が多いとも感じています。

アダルトチルドレンは,元はアルコール依存症の親という家庭環境で育ち,トラウマ的な傷つきを抱えたまま大人になったために,生きづらさを抱えている人のことでしたが,のちに虐待や機能不全家族といった家庭環境の問題全般に広がりを見せています。生きづらさからストレスを感じることが多く,成長する過程でも抑うつ傾向が続いていき,うつ病になる割合も高いと考えられます。

HSPは,"Highly Sensitive Person"の略で,「とても敏感な人」と訳され,環境の刺激に対して高い感度をもつ繊細なタイプの人を指します。基本的には生まれつきの特性ということで,発達障害傾向と重なる部分もあり,幼少時の家庭環境の影響による後天的な特性もあり得るので,アダルトチルドレンとの関連も高いです。アダルトチルドレン同様,うつ病のリスクは高いと言えます。

僕自身,HSPは当てはまる部分も多いと感じますが,生きづらさを感じている人にとっては,関連書籍などを読んで自分のことを理解してもらえたように感じ,ある種の流行にも発展します。それだけ,生きづらさは周囲に理解されづらいということでしょう。
発達障害という概念は,今ではずいぶん広まってきて,子どもの時期から指摘されて支援を受けたり,周囲の理解も得られたりします。しかし,発達障害という概念がなかった時代に成長してきた大人は,特性の理解もないまま生きづらさを抱えやすくなります。

発達障害という概念の広がりは,理解不足による偏見や差別を受けるといった,ある種の弊害もあるのですが,漠然とした生きづらさを子どもの時から感じ続けることになり,慢性的な抑うつ状態とも言えます。その特性から周囲とうまく関わりをもてず,いじめに遭ったり孤立から不登校やひきこもりになったりした経験をもつ人も多いので,うつ病になりやすい要素をもっているのです。

ただし,前回も書きましたが,自閉症スペクトラム障害やその傾向が強い人のうつ病というのは,典型的な臨床像と異なる側面があります。例えば,抑うつ気分を訴えているのに,自分の趣味の活動をする元気はあるという,ディスチミア親和型と呼ばれるタイプや,環境に対するストレス反応としての感情にうまくアクセスできず,身体症状中心になる仮面うつ病というタイプがあります。

環境からの刺激に敏感に反応しやすく,それ自体がストレスになっていることも多いので,職場などの環境を整える環境調整が奏功することもよくあります。環境調整は,物理的なことも大切ですが,特性に応じた周囲の理解を得ていくことも重要になります。
発達障害,特に自閉症スペクトラム障害における抑うつ状態というのは,通常のうつ病とは少し異なる側面があります。本質的には人との関わりを求めているのですが,その特性からコミュニケーションがうまくとれず,あきらめてしまっている状態と言えます。

うつ病になるメカニズムとして挙げられている中に「学習性無力感」がありますが,何度やってみても上手くいかない経験が重なることで,頑張る気力も尽きてしまったような状態を指します。一般的には,うつ病になる過程で様々な感情が起こるのでそう単純ではないのですが,自閉症スペクトラム障害では,心理学における「学習」のメカニズムが比較的シンプルに働くと考えられます。

心理学における「学習」というのは,刺激に対する反応によって形成される行動という意味合いになります。カウンセリングにおいても,感情にアクセスすること自体が苦手なため,深層心理学的なアプローチを普通に適用しようとしても難しい場合が多いです。同じパターンの繰り返しでうまくいかなくなっているのに気づき,違うパターンを見つけたりする心理教育的な方向になります。

注意欠如・多動性障害や限局性学習障害においても,発達障害という自分の特性に気づかずにうまくいかない経験を重ねていることが多いので,努力が足りないとかではなく,特性であることを理解することで気持ちが楽になるという方も多くいらっしゃいます。
発達障害には,自閉症スペクトラム障害(ASD),注意欠如・多動性障害(ADHD),限局性学習障害(SLD)に大別されますが,これらの困難に伴うストレスが重なり,抑うつ状態で不適応を起こしたり,うつ病などの精神疾患にまで発展することがあります。

発達障害は診断が複合することもあり,自閉症スペクトラム障害の特性が中心にあるとストレスの蓄積から抑うつ状態に陥る可能性が高いと考えられますので,ここでは自閉症スペクトラム障害に関する特性に関して主に取り上げたいと思います。自閉症スペクトラム障害では,物事の捉え方の独特さとコミュニケーションの困難さが,抑うつ状態やうつ病を引き起こす要因になっています。

興味の対象が非常に限定されていたり,独自の世界観から物事を捉えたりするので,自分の興味関心を他の誰かと共有することが難しいと言えます。また,ニュアンスや場の空気といった言葉以外の部分を捉えるのが苦手で,コミュニケーションで噛み合わないことが多いです。このようなことが重なって思春期頃から孤立しやすくなり,抑うつ状態が膨らみ不適応や不登校につながります。

自閉症という文字の印象もあり,人と関わることを好まないと思われがちですが,本質的には関わりを求めています。しかし,求めてもうまく関わりをもてず,孤立したりいじめに遭うこともあったりして,あきらめてしまっているというのが実際のところです。
パーソナリティ障害は,深層心理学でいう「自我」の脆弱さが共通していますが,「自我」の再形成が始まると,少しずつ葛藤を抱えられるようになります。葛藤を抱えられることにより,抑うつ感が強くなるのですが,カウンセリングとしては順調な過程です。

境界性パーソナリティ障害の場合,対人関係における相手の理想化の失望という葛藤を抱えられるようになることがひとつの目標です。失望を抱えることは,相手に向けていた「怒り」を自分の中にとどめることでもあります。無意識に自分本位な理想化イメージを相手に押しつけて,失望から相手を傷つけたという「罪悪感」が生まれますが,それを一緒に抱えるように関わっていきます。

自己愛性パーソナリティ障害の場合,自分自身に対する理想化の失望という葛藤を抱えられるようになることがひとつの目標です。この場合,自分自身に対する失望を,「怒り」として自分の中にとどめることになりますので,非常に強い抵抗を示します。自分に対する失望を抱えることで「責任感」が生まれてくるので,その人格的成長に対して一緒に認められるように関わっていきます。

この段階での抑うつ感は,幼少時のトラウマ的な体験とつながっているので,セラピストとの関係性が不安定になり中断になることもあります。セラピストとしては,そのトラウマ的な傷つきをいたわるように存在し続ける「器」になることが重要と言えます。
パーソナリティ障害のカウンセリングは,前回書いたような「自我」と呼ばれる心の枠組みの脆弱さを支えながら,ある種の形成不全を再形成するようにアプローチします。その過程は「育て直し」とも呼ばれ,年単位のカウンセリングの継続が必要になります。

境界性パーソナリティ障害の場合,対人関係における理想化とその失望による全否定という極端さがあり,0か100かという認知の仕方が強いので,話を聴きながらその間の10とか90などにとどまれるように一緒に見ていきます。「自我」の水準というのは,葛藤を抱えられるかどうかがひとつの基準ですので,好きと嫌いといった反対の感情等が混在できるように進めていきます。

自己愛性パーソナリティ障害の場合,対人関係において理想化が相手ではなく自分に向いています。自分自身の理想化に対して,葛藤を抱えることができないため,その理想化を脅かす相手に対して否定したり排除したりします。葛藤を抱えられるようにする方向性は,境界性と同じですが,自分自身への失望を抱えることになるため,それをもたらすセラピストを排除したくなりがちです。

パーソナリティ障害は,乳幼児ぐらいの小さい頃のトラウマ的な親子関係が背景にあることが多く,深い心の傷つきを抱えていると言えます。上記のようなアプローチは「介入」に当たりますが,その前提として安定した関係性を継続的に築くことが重要です。
パワハラ等のハラスメントにおいては,加害者側にパーソナリティ障害かそれに類する要因が考えられることが多いのですが,パーソナリティ障害をもつには,幼少時の家庭環境の問題が強く影響しているため,継続的なカウンセリングが必要と考えられます。

ここでは,境界性/自己愛性パーソナリティ障害について書きますが,一部を除いてパーソナリティ障害の人が自らカウンセリングに訪れることは少なく,何かトラブルが起こって周囲の人が困って行かされる形になることも多くあります。加えて,前回書いたような心の枠組みの脆弱さから内省力が弱く,来談を継続する動機にも乏しいので,中断事例も多く報告されているのが実情です。

このため,カウンセリングでは深層心理学で「自我」と呼ばれる,心の枠組みを少しずつ取り戻していくことが中心になります。そのためには,脆弱な心の枠組みを補う外側の枠組みが必要で,カウンセリングの時間や場所といった枠組みを守れるようにし,必要に応じてそこからの逸脱行動について,ルール作りをするということを,言葉の説明を含めて丁寧に進めていくことが重要です。

クライエント本人は,無意識レベルでセラピストから無条件の承認を得ようとするので,そういった枠組みに抵抗を示しますが,その枠組みの中でセラピストが「無条件の肯定的配慮」と呼ばれる関わりを続け,安定した関係性を築いていくことが不可欠です。
パワハラ等のハラスメントで,加害者側にパーソナリティ障害が疑われる場合,前回書いたようにルール作りなどで枠組みを明確にしていくことが,ひとつのポイントになりますが,ルールを守ってもらう立場の被害者側にも,心の強さが必要になってきます。

境界性/自己愛性パーソナリティ障害の場合,ルールなどの枠組みを作られることに対して,感情的に反応したり抵抗したりします。パーソナリティ障害というのは,深層心理学で「自我」と呼ばれる心の枠組みが脆弱なため,外側のルールなどの枠組みを守ることが難しいのが特徴です。境界性/自己愛性の場合は,特に対人関係に関する困難が大きいので,対応が難しいことが多いです。

一対一の関係でルール作りを行うのは,相手が激しく反応してしまう可能性があるので,できるだけその関係に権威性をもつ第三者のもとで書面にして明記するところまで行う方が適切です。そして,相手がどんな理由をつけてその枠組みを崩そうとしても,いったん決めたルールは厳格に適用するという意志をもつことが大切です。しかし,一人でそれをやりきることも大変だと思います。

枠組みに対しては,加害者側の上司や先輩などの権威性をもつ第三者が有効ですが,心理的な面でも専門家の支えが必要になります。カウンセリングで気持ちを立て直しながら,心の強さを保てるようなサポートを受けて,被害に対処していくことが重要です。
パワハラ等のハラスメントの加害者側にパーソナリティ障害と思われる特徴が見られる場合,その心理的な被害が大きいようなら,物理的に距離を置くのが一番です。「触らぬ神に祟りなし」というわけですが,物事そう単純にもいかない場合も多いでしょう。

職場のことなら,そう簡単に異動や転職ができるというわけでもないですし,家族になっていたりするとそう簡単に離婚できるというわけでもありません。物理的に距離を置けない場合は,心理的な距離を置くようにすることをお勧めします。境界性/自己愛性パーソナリティ障害の場合,この心理的な距離をおけないことが特徴ですので,周囲から枠組みを作っていく必要が出てきます。

枠組みというのは,ルールです。一番強力なのは,ストーカー規制法のような法律で,罰則を伴うなど力を伴うために,パワハラの加害者などには有効に働きやすいと言えます。会社だと,社内規定などを明確にするとか,ハラスメントをなくす取り組みをするなど,組織的に権威性を伴う方が有効です。家庭でも,加害者側の親とか先輩などと権威性を伴うルール作りをする方が有効です。

ただ,境界性/自己愛性パーソナリティ障害の場合,このような枠組みをかけられるのをひどく嫌がり,その隙間を探すようなことをしがちです。ルールは厳格に適用しないとなし崩しになる恐れがあり,適用する側の心理的な枠組みの強さが重要になります。