こころオフィス・盛田~うつ病,双極性障害のカウンセリング

ポリヴェーガル理論では,自律神経系がストレス状況などの危険を感じると「交感神経」が闘争/逃走反応を起こしますが,安全を感じると「腹側迷走神経」が働いて社会交流システムが活性化され,「交感神経」は別の働きをするという新しい視点を示します。

安全な状況における「交感神経」の別の働きは「あそび」と呼ばれ,他者との交流に向けられるようになります。動物同士のじゃれ合いなどを例として挙げており,人間では子ども同士の遊びから大人のスポーツまで,一緒に楽しむような活動がそれに当たります。「交感神経」は可動化が主な働きであり,危険な状況での攻撃性は社会交流システムによって抑制され,楽しむ形になります。

反対に,強いトラウマによって危険を絶えず感じている状態では「背側迷走神経」が活性化されているため,副交感神経系のもう一方の「腹側迷走神経」は働かず,「交感神経」は小さな刺激に対しても闘争/逃走反応を起こします。ポリヴェーガル理論では,自閉症の子が他者交流的な「あそび」が難しい点や,刺激に対しての過敏さをもつことなどを,このメカニズムで説明しています。

PTSDの症状も強いトラウマが引き起こすことから,自律神経の反応としては同様です。治療論として,安全と感じられる環境で少しずつ社会交流システムを活性化させ,「あそび」で神経エクササイズを行い危険への反応を和らげることが重視されています。
ポリヴェーガル理論における自律神経系の中で,トラウマなどのストレス状況に対しての反応は,まず「交感神経」による闘争/逃走反応の働きで対処しようとし,それで対処できない場合には「背側迷走神経」が働いて不動状態/シャットダウンを起こします。

「腹側迷走神経」の社会交流システムは,安全安心と感じられる状況でなければ「交感神経」に抑制されて働かなくなります。これがトラウマのレベルになると,社会交流システムの働きが常に抑制されるため,自閉症スペクトラム障害のような社会的な交流の困難につながるとされています。自律神経的には常に危険を感じている状態のため,生き残るための対処としての症状と言えます。

危険と感じる神経系の刺激として,ポリヴェーガル理論では音を重視しています。動物的なレベルでは「ウー」といった低い周波数のうなり声であり,人間では特に怒鳴り声などの低い音となります。男性の方が声が低いため,より危険を感じやすいと言えますが,女性でも怒鳴ったり機嫌が悪い声は低い音の響きが多くなります。また,電子機器などの低周波の音も危険を感じるものです。

このため,症状等の改善のためには自律神経系が安全安心と感じられる環境が必要とされていて,韻律に富んだ声が重要視されています。高い周波数の声による,母親が赤ちゃんに語りかけるようなものや,主に女性ヴォーカルによる歌などが推奨されています。
ポリヴェーガル理論では,自律神経系を系統発生的に進化の古い順から,「背側迷走神経」「交感神経」「腹側迷走神経」に分類しています。副交感神経系の働きを大きく2つの迷走神経で区別しており,トラウマによる自律神経の反応を中心に論じています。

「背側迷走神経」は系統発生的に古く,進化論的には爬虫類に見られるとのことですが,「交感神経」による闘争/逃走反応では対処できない生命や存在をおびやかす経験に反応します。その反応は「不動状態」と呼ばれ,生体としての機能的にはシャットダウンを引き起こします。この反応により,トラウマによる人間の症状として「解離」などの心理的反応が無意識レベルで起こります。

「腹側迷走神経」は系統発生的に新しく,哺乳類から見られるとのことです。これは,ポリヴェーガル理論で「社会交流システム」と呼ばれる,出生後の愛着形成に関わる重要な働きを担っています。「社会交流システム」は,安全安心を感じられる環境でないと発動せず,何らかの危険を感じている状況では抑制されるため,愛着や対人交流性の発達に大きな影響を及ぼすとされています。

何らかの危険を感じている状況では,「交感神経」が優位に働くために「腹側迷走神経」は抑制されます。「交感神経」は従来通り闘争/逃走反応に関連しますが,活動するための神経系でもあり,「腹側迷走神経」とのバランスの重要性が強調されています。
ポリヴェーガル理論は,ステファン・ポージェス博士による自律神経系の考え方を刷新する理論で,2018年の11月に訳書が出版されましたので1年が経ったところですが,原著までの研究から心理臨床的な応用,特にトラウマの治療に関して発展しています。

神経生理学から始まったその研究は,心理生理学という形で実験を基盤に理論構築されており,トラウマによる自律神経系の反応が精神症状にどのように影響しているかを丁寧に記述しています。心理臨床への応用では,日本では「ソマティック・エクスペリエンシング」というトラウマ治療を主な目的とした技法が一定の広がりを見せており,訳書もこの技法の実践者が翻訳をしています。

自律神経系は,従来「交感神経」と「副交感神経」に大別されますが,ポリヴェーガル理論では,副交感神経系を人間の進化の過程によって付随する迷走神経の反応の違いによって「背側」「腹側」の二つに分けて論じている点が特徴です。系統発生的に進化の古い順から,「背側迷走神経」「交感神経」「腹側迷走神経」に分類していますが「背側迷走神経」が特に新しい発見と言えます。

トラウマと呼ばれる生存が脅かされる強い刺激によって起こる神経生理学的な「背側迷走神経」の防衛反応として,解離などの精神症状が説明されていて,自閉症に関してもこのトラウマ反応との関連性が示唆されており,心理臨床に新たな視点を与えています。
「こころブログ」として心理臨床に関する記事を書き始めて,1年が過ぎました。基本的な部分を押さえておく必要もあったため,それほど突っ込んだ内容ではなかったものの,「とても参考になる」などのご感想をいただくことがあり,よかったと思います。

もう少し,カウンセリング/心理療法について内容を発展させていこうかと思っていたところに,以前より気になっていた「ポリヴェーガル理論」について学び始めました。このブログは,僕の理論構築といいますか,培ってきた技術をまとめて伝えるという側面があるのですが,それを大きく補完してくれるように感じました。このため,ブログの方向性を少し転換しようと考えています。

「ポリヴェーガル理論」は,人間の進化の過程に基づいて自律神経系を分類していますが,これまでの交感神経と副交感神経のバランスという見方を大きく修正しています。そして,トラウマや発達障害といった複雑な心理臨床の領域にも踏み込んで,理論を展開しています。僕の理論構築は,深層心理学と自律神経系の働きが中心になっているため,それを再構築する必要が出てきました。

ポリヴェーガル理論は,自律神経系に関する従来の考え方も包括的に構成されており,これまで書いてきたブログの内容を否定するものではないのですが,今後は記事を補完しながら,より精緻な理論構築に結びつけられるように,書いていきたいと思います。
トラウマと呼ばれるレベルの心の傷は,心身の強い緊張状態を引き起こし常態化していくという点を前回書きました。身体的な緊張状態は,身体感覚としてのおびえるような感じやそこにいられないような落ちつかなさを引き起こし,日常生活をおびやかします。

これは,生存をおびやかすような状況を逃げだしたいのに逃げられず,耐えるしかないという心理状態を表す身体感覚ですが,子どもの頃などの過去であっても,その記憶が自律神経のバランスを崩し続けていきます。症状としては,心身症という形で様々な身体症状を引き起こしますが,体の症状に焦点が当たると,トラウマという本質的な要因に気づかずに苦しみが続くことも多いです。

身体感覚からアプローチする,フォーカシングやプロセスワークなどによって,身体感覚から深層心理につながっていくと,その身体症状の背景にあるトラウマに触れることがあります。トラウマは,何らかの「危険」という感覚が伴っていますが,カウンセリングを通して「安全」な感覚をもてるようにして,過去の「危険」ではなく,今ここにある「安全」を感じられることが重要です。

トラウマに対する心身の反応は,自分の生存を守るために本能的に備わっている自然な働きです。その反応が続いて苦しい状態ではあるのですが,その呪縛から解放されると,その働きを現在の状況で自分を守ったり自分らしさを取り戻す気づきにつながります。
トラウマのような心の傷は,命そのものやその人の存在をおびやかすため,心身の強い緊張状態に置かれます。それが慢性化していくと,緊張状態が普通になってしまい,外傷体験を忘れていても「気が休まらない」という感覚は絶えずあるのがほとんどです。

トラウマの治療法のひとつとして知られるEMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)では,眼球運動による脱感作とあるように眼球運動を通して自律神経の副交感神経に働きかけるものです。脱感作というのは,トラウマに伴う緊張状態による神経系の興奮をしずめることを意味しており,トラウマに類似した刺激による反応を緩和し,結果的にトラウマによる心身の反応を改善します。

同様の機序は,自律訓練法を用いることでも可能です。自律訓練法は,身体感覚を用いた脱感作法でもあり,EMDRでは眼球運動を用い,自律訓練法では身体感覚を用いるという点で異なりますが,トラウマに伴う緊張状態に対して自律神経系に働きかける点では共通しています。当オフィスでは,自律訓練法をベースに,身体的アプローチによる無意識レベルへの働きかけを行っています。

自律訓練法は,やり方を覚えれば自分でも身につけられますし,日常でも起こりうるトラウマの反応に対処しやすくなります。また,カウンセリングに来室された時にも,習慣的に身につけておくことでよりスムーズに進めることが可能になる点が特徴です。
トラウマという用語が一般的になったのは,平成の時代を通してという感じがありますが,精神分析学をはじめとする深層心理学では,過去に心の傷を受けた外傷体験が,現在の精神症状やパーソナリティ傾向に強い影響を及ぼしているという考え方になります。

トラウマは「心的外傷」と訳されますが,心の傷は体の傷のように短期間で自然に治るわけではなく,長期間にわたって影響を及ぼしますので,質が異なるといえます。もちろん,トラウマが治らないというわけではなく,カウンセリング/心理療法によって癒されていくことが充分に可能です。ただ,やみくもにトラウマを掘り起こそうとするアプローチは危険を伴うので注意が必要です。

トラウマは,一般的には気軽に使われている感がありますが,本来的には無意識レベルのもので,精神症状やパーソナリティ傾向の背後に隠れています。無意識レベルに眠っているトラウマに触れると,より重篤な症状が現れる場合があります。自覚できているトラウマは比較的軽いもので,もちろん苦痛はありますが,日常生活をおびやかすことは少ないか,一過性の場合がほとんどです。

難治性のうつ病の背景にもトラウマが潜んでいる場合があり,長期的なカウンセリングが必要になります。症状が出ているということはトラウマを扱える時期にきているといえるので,トラウマと向き合っていくために,安心できる信頼関係が重要となります。
不安や恐怖がつきまとうような感覚が不安障害の特徴といえますが,深層心理学的には心の中の大切にしたい何かが脅かされているということになります。不安や恐怖は苦しいですが,ひもといていくとあなたが大切にしたいものを見つけられることが多いです。

例えば,不安や恐怖の対象が,病気や事故などの命に関わるものである場合は,あなたが命のエネルギーをどう使っていくのかがテーマになっている可能性があります。何のために生きるのかという実感や,生きがいを感じられる何かを見つけられると,不安や恐怖は薄れていったりします。不安や恐怖という症状が,より心の深くにあるテーマの自覚を促していることは珍しくありません。

不安や恐怖を避けようとするのは,前回書いたように自然な反応ではありますが,本質的には安全安心を求めての反応といえます。前述の例であれば,本質的には生きることの安全安心を求めているのですが,それが何かに妨げられ思うように生きられない悲しみやつらさが不安や恐怖という症状で表現されているわけです。その症状の意味をひもとくのが,深層心理学的なアプローチです。

不安や恐怖と向き合って,あなたが本当に大切にしたい何かを見つけるためには,ひとりではなかなか難しいので,専門家のカウンセリング/心理療法が必要になります。それを通して,症状の意味をひもとき,本来の自分を取り戻すことが可能になるのです。
前回書いたように,不安や恐怖は自分を守るための自然な反応です。ただ,心のバランスを崩してしまうと,不安や恐怖が襲ってくるような感じで,日常生活に支障をきたしてしまいます。その心のバランスをとるのが,カウンセリング/心理療法となります。

不安や恐怖が大きくなっていると安全安心が脅かされるため,それを避けようとするのも自然な反応です。「社会不安障害」や「パニック障害」などは,そのような場面を避けようとします。「強迫性障害」も不安が大きな要因ですが,不安を避ける形で安全安心を何とか得ようとする行為が症状となっています。このような意味で,症状が出ている時は逃走反応が出ている状態といえます。

ここで「逃走反応」と書いたのは,危険に対する動物的な反応のことで,自律神経系の乱れを表しています。不安や恐怖に対しての症状は,強い緊張状態といえますが,自律神経系では交感神経の亢進となり,それが極端になるのが「過呼吸」や「パニック発作」と呼ばれる症状です。これらの発作的な症状がない時にも,交感神経の優位が続き,副交感神経がうまく働かなくなっています。

この発作的な症状に対しては,抗不安薬などが処方されますが,不安や恐怖に対する感受性を麻痺させるような形で働くと思われます。カウンセリングでは,自律訓練法や呼吸法を身につけて,副交感神経の働きを改善して交感神経を抑制する方向を目指します。